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19970122 三田村鳶魚 『捕物の話 鳶魚江戸文庫1』

三田村鳶魚 『捕物の話 鳶魚江戸文庫1』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」より

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 1月17日、『捕物の話―鳶魚江戸文庫〈1〉 三田村鳶魚(1870-1952)著・朝倉治彦編(中公文庫)を読みました。
 裏表紙「与力・同心・岡ッ引など、捕物の関係者や方法・技術を扱う「廻り方」、長谷川平蔵でおなじみの「火付盗賊改」や国定忠次ゆかりの「八州取締出役」の人物とその組織・機構など、江戸の捕物の実際を克明に考証し、以後の捕物研究の嚆矢となった書。」
 大きな字の四百ページ余の文庫本なのですが、なかなか読み終えられなかった。通勤読書では、眠気が勝ってしまう。当然印象も散漫。隠居(してから)本か。

 鳶魚さんその人は面白そうな人です。「著者紹介」によれば明治三年東京生まれ、青年時代に三多摩壮士として政治活動をし(たらしい)、その後新聞記者として日清戦争に従軍、のち仏道に入り、明治の末から江戸時代考証の研究をつぎつぎ発表する、というもの。
 また巻頭の菊地明・文「三田村鳶魚翁」によれば、「明治二十二年十月十八日、二十歳のとき、大隈重信狙撃事件に係わった。(中略)翁のよき協力者柴田宵曲氏の直話によると、大隈は閣議を終えて桜田門から霞ヶ関の外務省の構内に入ろうとした時、来嶋に爆弾を投げられたのだが、その馬車が来るのを、坂の上から手を振って来嶋に合図を送ったのが三田村青年であったという。翁はまもなく釈放された。それは大隈が将来のある若者だ許してやれといったのがその釈放のきっかけになったとか、」
 デンジャラス。

 東大助教授山本博文さんの解説はわかりやすい。

「また、「大岡越前」や「遠山の金さん」の捕物の時、「御用」と書いた堤灯を持って捕方がわんさか集まって来るが、このような大捕物は、よほどの大事件でないと行われなかった。町奉行も率先して捜査を行っているようであるが、この役職は朝四つ(午前十時頃)の太鼓前に登城し、八つ過ぎ(午後二時頃)に帰宅すると、民事・掲示の訴訟を片付けるという非常に多忙な職務であって、捕物に一々つきあうほど暇ではなかったであろう。」

 時代劇を真面目に考証しているところがなんだかおかしい。
「町奉行は、東京都知事と高等裁判所判事、警視庁長官の権限を一手に掌握する重職であったことはよく指摘されるところである。しかし、その配下にどれほどの人員があったかというと、信じられないほど少数しかいない。
 町奉行所は南北両奉行所があり(中略)、月番で業務に当たっていたが、その配下の人員は、与力各二十五騎、同心各五十人にすぎない。つまり南北併せて百五十人の人員で、市政・司法・警察の業務を遂行していたわけで、いかに江戸時代の江戸が現在と比べて小さいからといってもこれは少ない。」

 幕府の威光が、そんなコストパフォーマンスの高い役所が存在できた理由の一部だったようですが・・・。

「つまるところ、江戸の治安のよさというのは、将軍を頂点とする社会秩序に庶民が合意し服していたから実現していたのであって、裁判での被告人の行動からもそれがよく窺えるのである。そしてその幕府の権威がゆらいだ時、幕府はいかに同心の数を増やしたところで、治安をもとの状態に復することは困難であった。幕府は大老井伊直弼が安政の大獄を推進している安政六年(一八五九)、町奉行の同心を南北各百四十人と倍以上に増強したが、これは幕府の強権発動であると同時に、とりもなおさず幕府の威光が薄れたことの反映であった。」

 「社会秩序に庶民が合意し服していたから実現していた」社会って、ある程度までは、今でもそうじゃないかと思ったりもします。
 でももう、(どっから出てたか知りませんが)「威光」って、どこにもないですよね。


 『捕物の話 鳶魚江戸文庫1』三田村鳶魚著・朝倉治彦編 中公文庫1996 780円 ISBN4-12-202699-7

 山本さんの解説のなかで引用されていたのが
 『旧事諮問録 -江戸幕府役人の証言-』(上・下)旧事諮問会編・進士慶幹校注 岩波文庫1986
 今や「江戸風俗研究家」の杉浦日向子さんが面白いと書いてたので読んだ本。



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