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19970206 養老孟司 『考えるヒト』

養老孟司 『考えるヒト』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」より

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 1月24日、『考えるヒト養老孟司(筑摩書房)を読みました。
 表紙に英語での副題(らしきもの)「Your Brain Is Thinking About Your Brain's Thinking....」。思考のフラクタル構造、あるいは観念のマトリョーシカ、とでも申しましょうか。

 さっきからずっと、「脳」についてどう書いていいものか、悩んでおります。と入力して、「脳」という字と「悩」という字は、よく似ているということに気付きました。
 「悩殺」などという最近聞かない言葉の読みから判断すると、「脳」も「悩」も、その「つくり」で「のう」という音を表わしているのでしょう。
 「脳」の「へん」は、「にくづき」。「にく」というくらいですから、肉体器官の一つであることを、漢字の発明者さんも訴えたかったらしいですね。
 「悩」の「へん」は、「りっしんべん」。Macintoshの「ことえり」文字パレットでも「こころ・したごころ・りっしんべん」と一くくりになっているように、こちらは「もの」ではなく、「はたらき」。
 養老さんのこの本によれば、動物には大きな情報系が二つあり、それは遺伝子系と神経系である、ということでした。
 遺伝子系で構造を決定される肉体器官の「脳」は、「自然」の産物でしょう。
 神経系に関わる「はたらき」としての「脳」は、さて何の産物なのでしょう。

 印象に残った部分を抜き書きします。
 「脳の中の現実」という章から、数学者の現実について。

「さて、ここでふたたび「現実」に戻ろう。現実とはなにか。ある特定の重みづけをされた世界像である。それは単なる好き嫌いよりは、もっと重大なものである。そうした現実は、しばしば価値観とか、倫理観とか、正義とか、真・善・美などど呼ばれる、強い重みづけを伴っていることもある。場合によっては、それを変更するくらいなら、死をも辞さない。これもまた、入出力系の重みづけであることが、ただちに理解されるであろう。」
 「こうした現実について、ふつうの人とは違う現実の持ち主がまだいる。それは数学者である。私がはじめてこのことに気づいたのは、アラン・コンヌという数学者と、ジャン・ピエール・シャンジョーという神経科学者の対談の本を読んだときである。この対談のなかで、数学者のアラン・コンヌが突然、「数学的世界は実在する」と言い出す。相手のシャンジョーは、自分で唯物論者というくらいだから、それを聞いてすぐに反論する。「数学的世界が実在するとすれば、それはどこにありますか」。そのときのコンヌの答が、私には忘れられなくなったのである。「世界中のだれでもいい、数学者にきいてみろ、私と同じ返事をするはずだ」。
 この「実在」とは、私が述べてきた「現実」とほぼ同じ意味だと解してよい。これが理解できたら、数学者が数学という「抽象的な」作業を、なぜ一生やっていられるか、それが理解できる。なぜなら、数学者とは、数学の世界がわれわれの「現実の世界」と同じ重さを持つ人だからである。私がコップに水をついで飲むのと、数学者が数学の世界でなにかを考えることは、いわば等しい現実感を与えることになるからである。
 じつはそれ依頼、数学者に出会う機会があるたびに、私は「先生にとって数学の世界は実在ですか」と尋ねるのが癖になってしまった。数学者に出会う機会は、私でもそう多くはない。それでも数回の質問のなかで、まさにコンヌのいうとおりの返事をすべていただいたのである。そのなかで、ある偉い先生は、私の質問の意味をはじめから理解しておられた。したがって、「先生にとって数学の世界は実在ですか」という質問に、「それはもちろん実在です」と答えられたあと、さらにつけ加えられたことがある。それは「私にとっては、数字が実体なのです」というものだった。」

 「あなたにとって××の世界は実在ですか」という質問に、「それはもちろん実在です」と確信をもって言える「××」を持たずには生きられないいのが、脳の過剰という「現実」を生きる、ヒトという生き物の「現実」かと思います。



 『考えるヒト』 養老孟司(1937-  ) 筑摩書房「ちくまプリマーブックス」101 1996 1100円 ISBN4-480-04201-6 C8347
#プリマーというくらいですから、「プリマーブックス」は若い人向けに書かれた読みやすい(画像が多い)シリーズです。
 プリマーブックス中の私のおすすめは、『自分のなかに歴史をよむ阿部謹也(この同報でも「わかること・かわること」メールで紹介しました)、『日本の歴史をよみなおす網野善彦です。


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