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19970214 山内昌之 『近代イスラームの挑戦』

山内昌之 『近代イスラームの挑戦』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」より

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 2月8日、『近代イスラームの挑戦山内昌之(中央公論社「世界の歴史」第20巻)を読みました。
 第一回配本『ルネサンスと地中海』は、かなりの売れ行きだったようですが、その続巻。

 イスラムについての、個人的な体験と見聞から書きます。
 三大宗教の中で一番信者が多いのはイスラム教だ、と何かに書いてあるのを見て驚いた覚えがあります。実感がわきませんでした。日本で普通の日本人をやっている限りは、イスラムの教えや信者に出会う機会は、ほとんどないですから。(この「世界の歴史」も第一回と二回の配本を逆にしたなら、売り上げに相当の変化があったでしょう。)

 私が、この人はモスレムだと知りながら話をしたのは、わずか二人の人間とだけです。

 一人目は、1994年4月、フランクフルトからローマに向かう飛行機の機上で出会った、パキスタン出身で英国籍の男性でした。私の相変わらず小汚いリーヴァイス501に対して、その英国人は洗練されたネクタイとスーツを着込み、聞けばコンピュータ会社に勤務し、全ヨーロッパの会議に出席するためにローマに向かっているのだという。
 今思うと、随分個人的なことまでずうずうしく聞いたものですが、パキスタン出身と知って「Are you Moslem?」と尋ねると「Yes.」という返事。両親がパキスタンからイギリスに移民した、という事情だったようですが、外面からその人がモスレムであると推し量るのは困難に思えました。

 二人目は、昨年の今ごろ、わが家に一泊ホームステイした、インドネシア人のJajangさん。「目のつきどころが鼻の上だね」の某企業のインドネシア現地法人に就職が決まったJajangさんは、日本に研修に来ている間のホームステイプログラムで、おそらく彼等には信じ難い「信じる特定の宗教を持たない」人間の家に一人やってきたのでした。
 音楽が好き(スピッツの「ロビンソン」がいい、といってました)で、日本のかわいい女の子を見ると足がついそちらに向くJajangさんでしたが、話をきく限りでは、ホームステイ当日も、私たちが熟睡している隣の部屋でちゃんと朝の礼拝をしたとかで、宗教が生活に密着しているというよりは宗教が生活と直結しているその現実に、驚かされました。
 おかしかったのは、千里山駅前の市場でおこのみ焼を買ったときのこと。戒律に従って豚肉を食べないJajangさんのためにいか玉を注文しました。「いかって、インドネシア語でなんていうの?」と聞くと、「チュミチュミ」という返事。風景がくっついた言葉はたやすく覚えられるみたいなことを、どなたか言っておられましたが、「チュミチュミ」にしっかり千里山市場の風情が張り付いてしまい、以来「チュミチュミ」は私の数少ないインドネシア語の語彙の一つになったのでした。

  最近の米国では、「Merry Christmas!」風のあからさまなクリスマスカードを出す人が減って、その時期でも「Season Greetings」という文面での音信が普通になっていると聞きます。多民族のみならず、多宗教の国になりつつあるかららしいです。
 湾岸戦争では、イスラムの文化に触れた兵士がモスレムになったということも少なからずあったようですし、1960年代キング「牧師」らが中心となった黒人運動が、最近はモスレムの人たちの手に引き継がれているようです。
 ユーゴ・中近東はもちろん、ロシア、インドネシア、つい最近の中国。その強固な信仰心のゆえか、異教徒との紛争はたえることがないのでしょうか。

 さて、『近代イスラームの挑戦』です。
 描かれる時代は、主に十九世紀。十八世紀末のナポレオンのエジプト侵攻から二十世紀初めトルコにケマル・パシャが登場する直前あたりまで。
 お恥ずかしい話ですが、知らなかったことばかり。

 印象雑記になってしまいますが。
 1.十九世紀のヨーロッパ列強の植民地主義は苛酷なものだった、と感じました。日本が植民地化されなかったのは、たまたま地理的に恵まれていたこと(世界の辺境にあったという意味で)と、外国列強の圧力に対抗しうる政治風土があったから(これも「たまたま」?)と思えるのですが、どうなのでしょう。
 2.江戸幕府がオランダから仕入れた情報が『和蘭風説書』という形でまとめられているらしいのですが、それによると当時の情報収集者の事実認識は相当確かなものであったようです。その認識の正しさも、植民地化をまぬがれた原因の一つではないでしょうか。
 3.この本の読了後すぐ、昨年NGOの活動でトルコはイスタンブールに行かれたM村F子さん(通称文ちゃん)と話をしたのですが、彼女の話では、世界史上ロシアに戦争で勝ったのは実は日本だけだそうです。日露戦争での日本の勝利は、ロシアの南下政策に苦しめられてきたイスラム圏の人々に希望を与えるものだったようで、オスマン帝国の政治改革運動等にも大きな影響を与えたそうです。松村さんの印象では、今でもトルコの人たちの日本びいきはかなりのもので、それゆえにか、どこでも歓待されたそうです。
 が、それ以降、日本は「遅れてきた帝国主義国」として、アジア諸国を圧迫する側に回ってしまう、という歴史認識を松村さんは持ってらっしゃるようですが、それは本文中の山内先生の認識と一致するものでした。

 石油の産出後の中近東の歴史が、今は知りたいです。



 『近代イスラームの挑戦』 山内昌之(1947- ) 中央公論社「世界の歴史」20 1996 2600円
 『ルネサンスと地中海』 樺山紘一(1941- ) 中央公論社「世界の歴史」16 1996 2600円

 山内昌之さんの本から手元にあるもの:
 『ラディカル・ヒストリー ロシア史とイスラム史のフロンティア』 中公新書1001 1991


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