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19970310 手塚治虫 『グリンゴ』

手塚治虫 『グリンゴ』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」より

 3月4日、『グリンゴ』(手塚治虫、小学館文庫)を読みました。

   *

 カストロさんとフジモリさんが握手をした日、南米に赴任した典型的日本人の商社マンを主人公にした、手塚さんの絶筆(のひとつ)を読んだことになります。未完の作。
 Volume2の註によりますと、『グリンゴ』は、「ビッグコミック」に1987年8月から1989年1月にかけて連載されていたそうです。漫画雑誌をほとんどまったく読まない、かつ晩年の手塚作品にはあまり興味を持てないでいた、私がこの作品のことを知ったのは、関川夏央さんの『知識的大衆諸君、これもマンガだ』をとおしてでした。
 なんのことはない、Volume2 巻末には『知識的~』から再録された関川さんの文章が、解説かわりに収録されてました。
 その中で、関川さんは言っています。

「思うにこの主人公は鉄腕アトムの成長した姿ではないだろうか。アトムは国籍と自分を律する文化の呪縛に悩むことなく、一途な科学へのヒューマニズムに生きた。一方、日本人(田原注・「日本人」と書いて「ひもと・ひとし」と読ませる。主人公の名前)は商社員としてやり手だが、決していや味な人間ではない。信義ということばを忘れることができないし、アトムと同じく向日的で、苦境にあっても不撓不屈の精神を保ちつづけている。かりにアトムが長じて、海外に出掛けて商売をする立場となれば、やはりヨーロッパ文明との強い摩擦をとおして(南米は煮つまったヨーロッパである)、日本製である自己をやがて凝視せざるを得なくなっただろう。」

 「科学の子」だった手塚さんもまた、「日本製である自己」を「凝視せざるを得なくなっ」て、『グリンゴ』という作品を描き始めたのかもしれません。

 漫画的にデフォルメされている結果とは思いますが、登場人物のあまりの類型化に笑ってしまう場面もあります。
 政治運動のはてに南米まで流れつき、現地でゲリラ活動に参加していた日本人男性。主人公の妻は、なぜか元「フランス人」で「金髪」、だがへたな日本人女性よりよっぽど「大和撫子」。そして、その妻に対して性的関心だけを抱く男たち(みな、「右」であれ「左」であれ、政治的経済的権力者)。というような。
 第二次大戦後も日本の戦争勝利を信じて疑わないいまま、外部との接触をたち南米の山奥に孤立して住む「勝ち組」と呼ばれる日本人村に、主人公たちが到着してからの話は、類型化をまぬがれ、オリジナリティを持ち始める(ように思える)のですが、残念なことに、手塚さんの筆はそこで終わっています。
 現実のほうが、手塚さんの想像力をはるかに越えてしまったのか、それとも登場人物たちを戯画化しより印象深いものにすることが手塚さんの真の目的だったのでしょうか。

 八十年代前半の南米を舞台にした話なのですが、政治状況経済状況ともに、手塚さんが取材した当時も人質が長いこと人質を続ける今も、ほとんど変わらないようにも思えます。むしろ悪くなっているのかもしれません。(このへんの事情は、Y本「ラテン系の誠実」E子さんにお聞きしたいところです)。
 「不思議な日本人」フジモリさんが登場して以来、南米の人たちの「ハポネス(日本人)」に対する理解は深まったのか、「ハポネス」の南米の人たちに対する理解はどうか。

 いずれにしても、『グリンゴ』の中に日系人大統領を登場させられるぐらいまで、手塚さんには長生きして欲しかったですねえ。

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 『グリンゴ』1・2 手塚治虫 小学館 各600円 1997

 『知識的大衆諸君、これもマンガだ』 関川夏央 文春文庫 510円 1996

   今、読んでいるのが:
 『カストロ―民族主義と社会主義の狭間で』 宮本信生 中公新書1292 680円 1996

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» 手塚治虫「グリンゴ」 [りゅうちゃんミストラル]
手塚治虫の「グリンゴ」を読んだ。以下のページに詳しいが、この作品は手塚の遺作。単行本も1巻しか出ていない。未完だ。TezukaOsamu@World-グリンゴ- 南米に派遣された商社マン日本(ひもと)が主人公。若くして異例の出世をするものの、後ろ盾となった専務が女性スキ...... [続きを読む]

受信: 2006.06.14 18:37

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