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19970320 宮本信生 『カストロ 民族主義と社会主義の狭間で』

宮本信生 『カストロ 民族主義と社会主義の狭間で』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」より

 3月12日、『カストロ 民族主義と社会主義の狭間で』(宮本信生、中公新書)を読みました。

   *

 この本を買ったきっかけは、例のチェ・ゲバラさんの本(『ゲバラ日記』みすず書房)を読み、「同志」カストロに興味を抱いたから。その本に寄せられていた、カストロ氏の序文はそれなり真情にあふれたものでした(もちろん政治的プロパガンダも多分に含んでいたような気もします)。
 しかしまあ読みたい本もたくさんありますから、『カストロ』さんもこのまま本棚のこやしかと思われた矢先、手塚治虫さんの遺作『グリンゴ』を読み中南米のことをもっと知りたくなり、そしてなにより、カストロ氏本人の国際舞台登場、リマ公邸人質事件テロリスト自国受け入れの件、が俄然この読書を面白いものにしてくれました。
 しかし、この「生き残り」のおじさん(おじいさんか?)、なかなかにしぶとい。
 さて。
 今日は、あの地下鉄サリン事件からちょうど二周年ということで、いろいろな「行事」があり、それにまつわる報道が多数なされていました。村上春樹さんによるノンフィクション『アンダーグラウンド』も発刊されました(昨日、西日本書店で探したのですが見つからず、店の人に聞いたらすぐ売り切れたとのこと)。あの村上さんによる、サリン事件の被害者の方々へのインタビューを集めた本です。
 阪神大震災の被災者も、あの事件の間接的被害者だったような気が、私にはします。(そういえば、そのときすでに弁護士一家を殺害し、松本サリン事件を起こし、例によってしらばっくれていた麻原くんは、「あの地震は、地震兵器によるものである」というコメントをしていたように記憶しております)。何十年あるいは何百年に一度おきるかおきないかの天災と事件が、日時的に間近に起こってしまったために、前の起きた天災のほうが、人目をひかなくなったきらいがある。地域性を考慮しても、関東圏の人々の注目は、当然オウム側に集まるわけですし。
 報道が分散されなければ、被災地に対する施政もまた違ったものになり、仮設住宅での孤独死、などという悲劇は相当数減少していたのではないか、と思います。私と同じ年の人が、そういう死を迎えたというニュースを聞いたときには、ちょっと考え込んでしまいました。

 いや、カストロの話のはずだったが・・・。
 気がついたことを列挙してみます(そのうちに、サリンや震災とリンクするかもしれない。しないかもしれないが・・・)。

 カリスマについて。
 私は1958年の生まれで、来年の秋には満四十歳になるのですが、まあおかげさまで変化の多い時代に生まれついたようでして、ずいぶん楽しませてもらってます。で、まあ、この四十年間近く、一国のリーダーとして生き続けなおかつその権力を保ち続けているのは、世界広しといえども、カストロさんぐらいしかいないんじゃないかと思うわけです。金日成も死んだし。カストロさんにつぐのはイラクのフセインさん?(湾岸戦争終結時、誰が今のブッシュさんとフセインさんのありようを想像したでしょう?)
 カリスマの権力者が存在する国は、大概、軍備過剰・言論弾圧・経済不振等々、一部の権力者以外には何のいいこともないわけですが、『カストロ』を書かれた宮本さんは、「カリスマ」カストロの限界を赤裸々に描く一方、その清廉さについても正当に評価しているようです。昨年でしたか、ぼろい筏にしがみつくようにしてアメリカ合衆国への亡命をはかるキューバ人の様子が報道されていましたが、人民が極度の貧困にあえいでいても、その不満が権力者たちへの反乱という形であらわれてこないのは、カストロを始めとしてリーダーたちが贅沢な生活をしていないからだとか。(マルコス夫人イメルダの靴コレクションみたいなものは、キューバにはない!)

 国際政治家カストロ。
 米国の鼻先に存在し、その上自国領土内に米軍の基地まで存在させつつ、旧ソ連を始めとする共産主義・社会主義国家と提携し、冷戦構造の時代を乗り切ったのはやはり国際政治家カストロの力量(と運)であったようです。そしてまた徹底した理想主義者でもあったようで、その主義主張と弁舌の巧みさでもって、国民のモラルを低下させないできたふしがある。実際、義務教育の完全無料化を達成するなど、ソ連の後ろ楯があるうちは、中南米の模範国家であり、当然カストロさんは偉かったわけです。このへん、早死にした「超」理想主義者チェ・ゲバラの影響を感じるのは、私だけでしょうか。
 旧ソ連の崩壊とともに、キューバの経済は転落の一途をたどり、カリブ海の難民を生みます。著者の宮本さんが指摘しているように、この世紀の最大の実験であった社会主義体制・社会主義経済の現実化はやはり不可能事で、計画経済に走れば走るほど、そしてそれを実行してしまうカリスマ指導者が存在してしまうと、国民たちは悲惨な目にあうようです。
 そういう意味では、日本はカストロさんを必要としないですし、生み出す風土もないでしょう。カリスマ指導者不在で正常に動く国家が一番健全なんでしょうが、あんまりいなさ過ぎても困るかなあ。国民の均一・均質性(今はそれもなくなりつつあるのか?)からして、日本こそ自然発生型社会主義国ではないか、と言っている人がいましたが、その通りかも。

 ペルーのテロリストを受け入れることは、理想国家キューバの旗を高く掲げるのに都合がよいこと。
 カストロは依然として、中南米において国際政治家であること。
 共産主義の理想を半分達成した国に赴くことで、テロリストの大義名分がたつこと。
 ペルー政府は、人質の血を流すことなく事件を解決することで、先進国からの経済援助を続けて受けられること。
 等々、カストロさんの逆襲、を生んだ要因でしょうか。

 それにしても、キューバの野球、なんであんなに強いんでしょうか?
 国威を高めるより、外貨獲得に利用するほうが、賢い気もするが、それは資本主義者の考えか。


 『カストロ 民族主義と社会主義の狭間で』 宮本信生(1937- ) 中公新書1292 1996

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