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19970515 村上春樹 『ねじまき鳥クロニクル』

村上春樹 『ねじまき鳥クロニクル』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」より

 5月11日、村上春樹ねじまき鳥クロニクル』(新潮社)を読みました。

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 1994年、第1部第2部を読み終えた村上ファンの田原ですが、そのときは、それまでの村上読書に感じたときめきを得られませんでした。翌年、第3部が出たのを知りつつも、買うことも読むこともないまま、二年足らずのときが過ぎ、北海道移転。第3部を読んでみようと決心したのは、以前ご紹介した『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』(お二人が『ねじまき鳥』について語り合う、という側面を持った本です)を読んだこと、やはり村上ファンの弟の近所に越してきて、気軽に彼の本を借りられるようになったこと、でした。

 何か大事なこと、たとえば自分の進路を決める大きなそして困難な試験の前など、に限って、長大で面白くて途中でやめられない読書に、心ならずもはまってしまうという経験を皆様もお持ちではないでしょうか? 以前読んだものの、記憶が薄れているのをよいことに第1部の最初から、ゆうに千ページを超える本の読書を、このクソ田原は、このクソ大事なときに、してしまいました。

 「わかちゃいるけどやめられない」。『スーダラ節』を聞いた植木等さんのお父上は、「親鸞の教えにも通じるものがある」とおっしゃったそうです。

 今回の『ねじまき鳥』読書が前回より面白いものに感じられたのは、物語中に剣呑な世界の側代表として登場するワタヤノボル氏に、多くの信者さんたちを「わかちゃいるけどやめられない」状態にしてしまった教祖、麻原こと松本"被告席のつぶやきシロー"の姿を重ねあわせたからかもしれません。

 村上氏の描くワタヤノボルさんの姿より、現実のマツモトチヅオさんの方がリアルなのは、もちろんのことです。マツモトチヅオは目が不自由なはずなのに、「目の見えない私にそんな悪いことができるでしょうか」、天気のよい日はよく信者とキャッチボールをして遊んでいたそうです。横浜の弁護士一家殺害後、遺体を裏日本の山中に埋めるよう命じられた信者たちは、カニを食べながら作業をしたという証言をしていました(この報道を聞いたとき、田原はキレそうになりました)。

 なかなか、普通人の凡庸な想像力では、追い付きません。

 それでもなお、なぜ、我々(村上・河合両氏)は「物語」を書き続けなければならないか(そしてクソ田原は読み続けなければならないか)。『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』のテーマはそこにあったように思います。

 なぜ「物語」か。

 やっかいなことに、人間を本当に生き生きと生かす水源は、「地下」=「アンダーグラウンド」深くまで掘り下げられた「井戸」からしか供給されないらしいのです。『ねじまき鳥』は枯れた「井戸」に潜り、ふたたび水脈を引い戻し、その井戸を潤いの水で満たす、という物語です。

 おそらく、強固な「剣呑な世界」=「アンダーグラウンド」の存在を、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のころから、村上氏はやがて正面から表現しなくてはならないもととして、薄々感じてらしたのではないでしょうか。『世界の終わり』もまた、「地下鉄」=「アンダーグラウンド」を始めとして、「水脈」(「世界の終り」世界のあの外界へと流れていく川!)を探しに、潜っていく物語でした。

 自分の精神下=「アンダーグラウンド」に潜り、常に新しい自分=「水脈」を発見し、白日のもとに引っ張り上げる。

 その介助役として、優れた物語があるということでしょうか。

 が、その「水脈」のすぐ脇に、果てしない暗闇が潜んでいる。

 その介助役として、おかしな教祖を選んでしまった人たちのはまり込んだ暗闇の深さ・・・。

 「物語」の「癒す力」によって、田原も元気を回復しました。

 そしてまた、元気一杯、「わかちゃいるけどやめられない」を繰り返す日々であった。
 とほほ・・・・。


 『ねじまき鳥クロニクル』 村上春樹(1949- ) 新潮社 第1部泥棒かささぎ編1994 第2部予言する鳥編1994 第3部鳥刺し男編1995

 『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』 河合隼雄(1928- )・村上春樹 岩波書店1996
 『夢を食いつづけた男 おやじ徹誠一代記』 植木等 朝日文庫1987
 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』 村上春樹 新潮社1985



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