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19970605 大貫妙子 『ライオンは寝ている』

大貫妙子 『ライオンは寝ている』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」より

 5月27日、大貫妙子ライオンは寝ている』(新潮社)を読みました。

   * [ライオンは寝ている] 大貫妙子

 先々週の金曜日、『笑っていいとも』の「テレフォンショッキング」に、坂本龍一教授からのご紹介で、音楽家大貫妙子さんが出演されていました。

 近頃話題のユーミンと同年代で、デヴューした時期も近く(大貫さんは山下達郎氏とともにシュガーベイブというグループでキャリアスタート、ユーミンの『ミスリム』でも大貫さんの声を聞くことができます)、いまだに一線でその仕事を続けられているのも同じです。セールスの大きさでは、当然ユーミンにはかなわないわけですが。

 実は私は、大学時代からの大貫さんのファンでして、わくわくしながらタモリ氏のテレビを見ていたのでした。タモリ氏も、意外と大貫さんに好意的で、感じが良かった。チビなのですがもともと姉御肌の大貫さんは堂々と受け答えされて、『ライオンは寝ている』中でも触れられている、南極大陸への大時化航行の話など楽しげにされていました。
 今現在は、竹中直人監督の新作『東京日和』のサントラのお仕事をされているそうです。

 『ライオンは寝ている』は、新潮社の雑誌「Mother Nature's」に1990、1991、1992と収録された、それぞれ、ガラパゴス諸島、南極大陸、タンザニアの自然保護区を訪ねての、旅行記録文集です。プロの動物カメラマン、佐藤秀明氏と岩合光昭氏といえばその世界では有名な方々ではないでしょうか、撮影による素晴しい写真も多く収録されています。
 自然の中で撮影されている大貫さんは、化粧っけのないすっぴんで、これが40すぎの××さんか、と思えるような子供っぽい笑顔をしています。40過ぎてヘソ出しルックのユーミンの引き締まった腹筋(K茂さんのコンサートレポートより)と、好対照です。どちらも長いことやってこれただけのことはあります。『笑っていいとも』のときのそれなりの化粧と緊張のせいか固い表情を思うと、ああこの人は本質的に「極地向き」なんだと思わずにはいられません。
 大貫さんの文章家としてのデヴュー作は、『神さまの目覚まし時計』(角川文庫)という初めてのアフリカ体験を綴った紀行文で、これも私の大好きな本でした。

 それにしても、「自然」ってなんなんでしょう。われわれは簡単にその言葉を使いますが。
 一つ、はっきりわかっていることがあって、それは人間が「地球に優しくない生き物らしい」ということです。じゃあどうすればいいのかは、また、わからない。すぐ近所の野幌森林公園の「自然」を楽しむために、排気ガスを出して車ででかける私です。困ったもんです。

 そんな私に、大貫さんの本はいくつかの示唆を与えてくれます。

 「はじめに」から。

 「家の庭から飛び出して、大自然の旅を始めたばかりの初心者に、「自然が好きなんですか?」「動物が好きなんですか?」と問い、答えを求めるのはあまりにも性急すぎると思うのですが、私が旅を始めてから、幾度この質問をされたでしょうか。そして、そう問われる度に考え込み、結局「自然」という大命題はおいておいて、自分が見てきた事実だけをお話しするようにしてきました。
 環境問題についても、よく聞かれました。しかし、誰の立場に立って答えればいいのでしょう。北半球の人間が森を守ろうとしても、森を切り開いても手に入れたいものがある、と考えている人間がいるのです。象牙や、虎の骨や、犀の角を手に入れるための密猟もあとを絶ちません。それを買う人間がいるからですが、環境問題とは、人の問題なのです。企業や社会の問題にすりかえて責任をなすりつけても、人の問題は個人(自分)の問題。"何ができるか"ではなく、"どう生きるか"ということぐらいしか、答えの基準になるものは見つかりません。今私が何か言えるのだとしたら、せめて百歩譲って、生命の持つ「自分で回復しようとするエネルギー」。その力までも根こそぎ破壊してはいけない。ということだけです。」

 「あとがき」から、プロカメラマン岩合さんの教え。

 「双眼鏡を握りしめたまま、なかなか探し出せない私に岩合さんは言う。
 「それは、何かちょっとした違和感のようなもの」だと。「たとえば、丘があって草原があって、小さな茂みがある風景。その、毎日見ている変わらない風景の中に感じる、ちょっとした些細な違和感。そこを双眼鏡でじーーっと見る。じっと見ているとそれが動くように感じる。勘のようなものに近いけれど、それがライオンだとわかる」のだそうだ。
 私には最初半信半疑でも、数キロ車を走らせて行くと、ライオンはいた。彼の勘は九〇%的中した。
 「見る」というのは、ただ見るのではなく全神経を集中させること。慣れないと頭が痛くなるこの訓練も、続けるうちに「ほら、あそこ」と言われてもすぐに同じように探し出せるようになった。これは自然の中にくらすどんな小動物もすぐに探し出せるようになる、素晴しい能力だ。」

 もひとつ。

 「野生動物は空と大地の間で生きている。そのあたりまえのこと。ここでおこることは、あたりまえのことばかりだ。
 その全体、全部を体にたたき込むこと。あたりまえの感覚を呼び覚ますこと。ヒトであることのこだわりに心を奪われないこと。気配をなくすこと。
 自然に入っていく糸口を探す毎日は、日に日に体が「しん」と静かになっていくようだった。」


『ライオンは寝ている』 大貫妙子(1953- ) 新潮社 1996
『神さまの目覚まし時計』 大貫妙子 角川文庫


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