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19970719 辺見庸 『もの食う人びと』

辺見庸 『もの食う人びと』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」より

 6月30日、『もの食う人びと』(辺見庸、角川文庫)を読みました。

   * [もの食う人びと] 辺見庸

 今この日本に住んでいる人間からはほど遠い、貧困と飢餓、疫病、民族紛争、全体主義、戦争の惨禍等々の中で「もの食う人々」の風景を、著者自らその土地の人達と同じ食卓で同じものを食べる旅行をとおして描いた本です。
 巻頭「旅立つ前に」で辺見さんは書いています。

 「人びとはいま、どこで、なにを、どんな顔をして食っているのか。あるいは、どれほど食えないなか。ひもじさをどうしのぎ、耐えているのだろうか。日々ものを食べるという当たり前を、果たして人はどう意識しているのか、いないのか。食べる営みをめぐり、世界にどんな変化が兆しているのか。うちつづく地域紛争は、食べるという行為をどう押しつぶしているか・・・それらに触れるために、私はこれから長旅に出ようと思う。」

 一番印象に残ったのは「禁断の森」という、チェルノブイリ訪問記でした。
 そこで暮らすしかない人々は、放射能汚染などなかったかのように暮らし、食事をします。疎開先から立ち入り禁止区域に舞い戻ったお年寄りは、今さら長生きのしょうがないとばかり、森に入り茸を採ってきては食べる。汚染していない救援物資は、「物の切れ目が縁の切れ目」とならないように、遠くに住む孫たちに送り続ける。

 そんな馬鹿な、の連続なのですが、あまり人のことは言えない。
 来るべき世界では、食料問題や環境汚染が大きな問題となるのが明白であるにもかかわらず、問題解決の委員会が増えその数だけ会議も増えるが、事態は空転したまま。
 世界は一家、人類はみな「わかっちゃいるけどやめられない」。ナンマイダー、ナンマイダー。

  南イタリアで漁船に乗り地中海のとりたてのイワシを食べる話の「魚食う心優しい男たち」以外の大半は、その話も背景にユーゴ内戦がちらついているのですが、正直言って気の滅入る食の風景です。世界の暗黒面を探し歩く旅程になっています。ひどいひどいとは聞いていたがここまでとは、というのが大方の読者の実感ではないでしょうか。この本が話題になったのも理解できます。
 が、しかし、質素で日常的ではありつつも暖かな食卓風景も、世界には無尽蔵にあるはずで、そちらも描いて欲しかった気もします。貧困と飢餓の対極にある、飽食と浪費の食卓とともに(この時期、世界中の鰻を買い漁って、「日本伝統」の土用の鰻を食べること、食べられること、にどのような意味があるのか)。
 ああ、たいへんねえ、かわいそうねえ、で終ってしまわないためにも。

 やはり「旅立つ前に」で辺見さんは書いています。

 「私はある予兆を感じるともなく感じている。未来永劫不変とも思われた日本の飽食状況に浮かんでは消える、灰色の、まだ曖昧で小さな影。それが、いつか遠い先に、ひょっとしたら「飢渇」という、不吉な輪郭を取って黒ずみ広がっていくかもしれない予兆だ。」

 緯度からいうと、日本は世界の砂漠地帯ゾーンに位置します。が、地理的状況、西にヒマラヤという高山帯があり、いわゆる梅雨時には、そこから流れてくる湿った空気が雨をもたらし、この緑多い土地の自然を維持しているのだそうです。(もちろん、ここ数日来の豪雨のような、自然災害の源でもあるのですが)
 どうもわれわれは、その風土に甘え、必要以上に人工化を押し進めてはいやしまいか、とは思います。食料自給率は、今どれほどなのでしょうか? その豊かな自然に育まれた耕作・漁労文化は衰退する一方ではないでしょうか?

 気候温潤という幸運を浪費し、他所から金にあかせてかき集めた食材をこれまた浪費する。
 『もの食う人びと』は、そういう国でこそ生まれた一冊でありました。


 『もの食う人びと』 辺見庸(1944-  ) 角川文庫 1997

 『もの食う人びと』を読んで、鶴見良行さんの『ナマコの眼』(ちくま学芸文庫 1993)は、すぐれた作品であるなあ、と改めて思いました。

 最後に一句。

  しかれども うなぎ食いたき 午睡かな


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