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19970807 米沢富美子 『科学する楽しさ』

米沢富美子 『科学する楽しさ』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」 より

 8月5日、『科学する楽しさ 21世紀へのチャレンジ』(米沢富美子 新日本出版社)を読みました。

   * [科学する楽しさ―21世紀へのチャレンジ] 米沢富美子

 鶴見和子さんの『きもの自在』からこの『科学する楽しさ』まで、女性の本(途中の『茶の本』も実質は訳者の立木智子さんのものだったので)が6冊続きました。特に、鶴見、塩野、白洲各氏などは、「濃い」人たちで、その仕事も「濃い」のですが、この米沢さんもすごい人です。
 アモルファス研究の第一人者として活躍しつつ、三人の子供を育て、昨年九月からは「日本物理学会会長」を勤めるという人です。そのかたわら、『科学する楽しさ』に収められているような随筆も書くというのですから。ガシガシ、やってる。
 でも、本の中で紹介されている写真を拝見した感じや、つい最近お亡くなりになった夫の允晴さんのことを書いた文章を読んだ印象では、人間的に円満な人のようです。
 えらいなあ。

 メールのやりとりを続けさせていただいている、大阪府立大学のT幡先生からのご紹介著者でもあります(T幡先生も日本物理学会の会員だそうです。)

 「情報の嵐」という文章を転載します。

 「物理学の分野では、研究の方法として大きく分けて、実験的方法と理論的方法がこれまでの主流であった。いうまでもなく、実験物理学ではさまざまな現象を観測し、対象とする物質がどのような物理的性質をもっているのかをあきらかにする。ガリレイが天体の運行を観測したのも、ニュートンがりんごの落ちるのを見たのも、観察を通しての実験物理学の原型である。また、実験室では、いろいろの条件を実現しながら物質の性質があれこれ測定されている。
 一方、理論物理学では、実験結果の解析から普遍的な物理法則を見いだしたり、逆に実験では見つかっていない現象を予測したりする。ガリレイが観測結果から地動説に確信を抱いたのも、ニュートンがりんごの落下から万有引力を発見したのも、アインシュタインが相対性理論を展開したのも、すべて理論的アプローチである。
 物理学における研究の方法としてこの他に、コンピューターを使ったシミュレーションが三十数年前(初期の計算機が作られたすぐ後)に提案されたが、近年、コンピューターの目ざましい進歩の結果、コンピューター.シミュレーションの方法は、実験、理論と並ぶ第三の物理学と呼ばれるまでになった。
 この第三の物理学の長所はいくつかあるが、代表的なものとして、実験室では実現不可能な状況(たとえば、非常は高温の状態、超高圧の状態、宇宙における状態など)もコンピューターの名かではパラメーターを変えるだけでわけなく作りだせる点、および、インプットとアウトプットを自由にコントロールして原因と結果の因果関係を曖昧なしに解明できる点、などが挙げられる。なかでも特筆に値するのは、系を構成するミクロな原子に関するすべての情報(一つ一つの原子の位置や速度)が事細かにとりだせる点である。これは、最新鋭の実験技術でさえまったくかなわない特徴である。
 このような個々の原子に関する情報を組み合わせて、多岐多様な物理量を調べることができる。そのとき全情報を、どのように「組み合わせる」かが、決定的な勝負どころになる。全情報の単純なリストからは、何も伝わってこない。
 こういう話をするとき、いつも連想するのは、アルゼンチンの作家ルイス・ボルヘスの本に出てくる「実物大の地図」のことである。できるだけ詳しい地図を作りたい、という考えを押し進めていくと、結局は実物大の地図に行き着くという話である。この話を聞くと、いかにバカげたことか誰でも気がつくだろう。地図はそこに情報が載っているから有用なのではなく、そこから情報が抜け落ちているからこそ役に立つのである。
 多すぎる情報は無情報に等しい。無差別に押し寄せてくる幾多の情報の中から、不要な情報をスクリーンし、大切な情報だけを見抜く力量が、これからの情報化社会では、正否を左右する何よりも重要なファクターになるだろう。(「先端人」1994.4)」


 『科学する楽しさ 21世紀へのチャレンジ』 米沢富美子(1938- ) 新日本出版社 1996

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