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19970816 加藤周一『夕陽妄語 第一輯 1984・4-1987・12』

加藤周一『夕陽妄語 第一輯 1984・4-1987・12』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」 より

 8月13日、『夕陽妄語 第一輯 1984・4-1987・12』(加藤周一 朝日選書)を読みました。

   * [夕陽妄語〈第1輯〉 (朝日選書)] 加藤周一

 加藤さんはどんな人でしょう?
 現代日本を代表するリベラリストという評を見たことがありますが、雑な言い方をしてしまえば「左翼系知識人」(ゴーマニスト小林よしのりさんが忌み嫌うところの)になってしまうのかもしれません。

 最近は朝日新聞を見ていないのでわからないのですが、現在も『夕陽妄語』の連載は続いているのでしょうか。
 月一回のペースで、朝日新聞の夕刊に連載された文章をまとめたもの。すでに何冊か単行本化されているものを年代順配列の区切りを変えて、朝日選書に再収録したものだそうです。 いずれにしても、手に入り易くなったのはありがたい。

 「1984・4-1987・12」当時の各国の政治トップの名をあげますと、米国はレーガン大統領、ソ連(ロシアじゃないです、念のため)はゴルバチョフ書記長(大統領じゃないです、念のため)、日本は中曽根(最近は不沈空母ならぬ不沈政治家をやっている)さんから竹下さんへ、フランスはミッテラン大統領(だよね?)。
 十年一昔といいますが、その一昔前がどんなふうで、今何が変わり何が変わっていないのか、検証するには最適の本ではないでしょうか。

 そのスタンス。
 1997年4月に書かれた、巻末「あとがき」から。

「話題は多岐にわたる。その理由の一つは、新聞連載のためである。新聞の読者は多く、その関心の向うところが人によってちがう。ある読者からは「あなたの政治談義は面白いけれど、絵や小説の話はむずかしくて何を言っているのかわからない、もっとわかり易く書いて頂戴」と言われた。また別の読者からは、「政治向きのことに興味はないけれど、今月の絵の話はよかった、実はぼくもそう考えていたところだ」と言われた。私はできるだけ多方面の話題を扱うことで、誰も十分には満足しないが、いくらかは満足してくれるように努めたのである。もう一つの理由は、おそらく私自身の好奇心であろう。私は敦煌の仏様にも興味を覚え、同時に日本の軍事予算にも関心をもつ。その二つの対象の間には全く興味がないが、そのどちらをも理解したいという欲求が私においては強い。しばしば私は好奇心の趣くところに従った。」

 このメールも「誰も十分には満足しないが、いくらかは満足してくれるよう」なものであればよいのですが。

  例によって引用を。
 乗り物に乗る機会の多い時節柄。

 1985.11.22分「旅の小説三つ」から。

「そういう二つの小説、一つの短編集を、私は旅の途中で大いに愉しんだ。それは、娯楽というものであったか。しかし単なる「娯楽小説」では、娯楽にもならないだろう。また単に消閑の具でなかったことも、確かである。すくなくとも私は消閑の必要を感じたことがない。それならば、なぜ私は旅の途中で小説を読むのだろうか。
 たとえばロアシーの空港を飛びたったときから、私はもはやパリにはいない。しかし成田に到着するまで、私はまだ東京にはいない。旅の時間は、その「もはや」と「まだ」に間、私がどこにもいない時間である。パリの用件はすんだ、たとえすまなかったとしても、次の機会まで関係がない。東京の現実とのつき合いは、先の話で、さしあたりは働きかけようがない。この現実との無関係、この世界からの不在ほど、もう一つの現実、想像の世界に入ってゆくために、好都合な条件があろうか。私は現実の世界に用件をもっているばかりでなく、強い好奇心をもっている。この世の中についてほとんど何らの情報も提供しない小説を、それ自身のために、私が読む機会は、あまり多くない。もし旅の条件がなければ。
 (中略)
 しかし想像の世界は、また現実の一面をも啓示する。私は小説を読みながら、その小説をくれた女友だちにも、--もっと正確にいえば、それまで私の知らなかった彼らの一面にも、出会う。なるほど、こういう話が、彼女には面白いのか。そう考えながら、私は、私にとって限りなく面白い現実の人間の世界へ戻ってくるのである。やがて航空機は東京に、電車は京都に着くだろう。そこでは、仕事が待っている、いや、仕事とは関係のない一面を私の知った人間が、待っているだろう。」


 『夕陽妄語 第一輯 1984・4-1987・12』 加藤周一 朝日選書1011 朝日新聞社 1997

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