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19971001 ガルサン・チナグ『草原情歌』

ガルサン・チナグ『草原情歌』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」 より

 9月30日、『草原情歌』(ガルサン・チナグ 今泉文子訳 文芸春秋)を読みました。

 モンゴル国籍のトゥバ人作家による、モンゴル内でのトゥバ民族受難の時代とそれにまきこまれた一家族を描いた小説です。
 その題名だけは、CD-ROM「TUVA - トゥバ」でも紹介されていますので、私も知っていたのですが、今回読んでみようという気になったのは、今岡さんという方から届いた一通の電子メールがきっかけでした。
 私のホームページにある「トゥバ」ページにアクセスいただいた今岡さんの「チナギーン ガルサンの「草原情歌」を読んで,トゥバに興味をもちました.」というcgi outputメッセージが、九月中旬に届きました。
 その後何度かメールのやりとりをするうち、今岡さんは大阪外国語大学でモンゴルについて研究されている(司馬遼太郎さんの後輩?)ことがわかり、「TUVA - トゥバ」についてもさらに詳しくお知らせしたのでした。

 今岡さんによれば、「ガルサンという作家は、ドイツ語でトヴァ民族の文化を書き、ドイツの文学賞をとった方で、今でもモンゴル国内のトヴァ人のため私費を投げ打って協力している方です。」とのこと。
 また、「ドイツのARDという放送局が、ガルサンの活動、故郷から離れ、散り散りになったトヴァ人を生まれ故郷のバヤンウルギー県に返す大移住(大移動)をドキュメンタリーにおさめた」そうで、「NHKも彼を取り上げようと情報を集めている」ということです。
 今岡さんはすでに何度かモンゴルを訪れており、次回の訪問ではそのガルサン・チナギーンさんにお会いする予定とか。

 『草原情歌』の時代背景を少し説明します。

 モンゴルはロシアと中国という二つの異民族の大国にはさまれ、歴史的政治的に厳しい現実を生きてきました。
 その周辺には、モンゴル人以上に政治的力を持たない少数民族が数多く存在し、モンゴルの西北地域に住むトゥバ族もまた1940年前後、民族間の争いや強制移住などの憂き目にあったのです。

 その、モンゴル国内にわずか数千人という少数が残ったトゥバ民族の中から、チナグさんという才能が生まれ、その民族の歴史を文学作品(原文はドイツ語です)として表現したわけです。

 例によって引用を。

「シュームルの子や孫たちは、いまは時計の時間に合わせて暮らしている。かれらの先祖は太陽と月に照らして暮らし、星の並び方が生活を意味づけた。これは大きな違いだが、さりとて大きすぎるというわけではない。少なくとも、人々がもっと幸せになろうと願って自分の住処と、慣れ親しんだ暮らしとを棄てて、見知らぬ土地で知らない暮らし方を始めたときに思いこんでいたのとは違うだけである。なぜなら心配ごとや喜びというのはどこにもあるもので、二つながら手を携えてやってくるのだし、この二つが交互に入りまじって人生というものは成り立っているからである。一方から逃れるというわけにもいかず、他方が追いかけて手に入るというものでもない。心配事と喜びとは人生を構成する二大要素なのだ。」

 「ゲル」の骨組みのようにしっかりとした構成と、そこに張られるフェルトのように細やかな感受性を併せ持った作品とでも申しましょうか。


草原情歌』 ガルサン・チナグ(1944- ) 今泉文子訳 文芸春秋1995

 異民族間の争い、というと日本ではどうもピンとこないですし、日本にもそうい時代があったぐらいにしか感じられなかったりするのですが、今朝のニュースでは、インド・パキスタン間で、カシミール地方の領有をめぐり、一般市民の死者が相当数出たと報じられていました。
 「チナグ」を生み出さないまま消え去る民族も多数ある(あった)はずで、それは不幸としかいいようがありません。



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