19971119 白洲正子・加藤唐九郎『やきもの談義』
白洲正子・加藤唐九郎『やきもの談義』
「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」 より
11月11日、『やきもの談義』(白洲正子
・加藤唐九郎
、風媒社)を読みました。
来年は加藤唐九郎さんの生誕百年にあたるそうで、同じ出版社からあと二冊加藤唐九郎さんの対談集が出版されたようです。これは七十年代におこなわれた対談の再録。
加藤唐九郎とは何者なのでしょうか?
昨年、雑誌「太陽」の11月号を読んで私はその名前を始めて知りました。その号で巻頭エッセイ「真贋のあいだ」を書いていたのが、白洲正子さんであります。
陶磁研究家にして実作者。そして、「永仁の壷」の贋作者。
「太陽」中の稲垣喜代志さんの文章によれば、
「唐九郎の名を一躍全国に知らしめたのは昭和三十五年八月に起きた「永仁の壷事件」であり、日本中がこの話題で持ちきりとなった。昭和十二年に唐九郎が作った「永仁」銘の瓶子が、戦後、鎌倉時代のものとして国から重要文化財の指定をうけていたが、「あれは贋物だ」と制作後二十余年後に騒ぎが起き、「贋作づくり」として唐九郎はマスコミの集中砲火を浴び、作品は重文からはずされ、同時に "人間国宝" の名も消えた。」
本物以上の偽物を作ってしまう人、だったのですね。
そして勉強家でもあったらしい。
『陶器大辞典』という本の基礎データとなったのが、唐九郎さんがこまめにメモを続けていた資料カードで、「医者のカルテを参考に、A7判の紙にメモしてテーマ毎に分類、特注のボール箱に収め」られたものとか。
いわゆる「日記気質」の人で、膨大な日記を残し、前記稲垣さんによれば、昭和史のある事件の月日の正誤に関して話題になったとき、「日記の索引」を取り出してきて、稲垣さんを納得させたという。 稲垣さん曰く、「日記の索引を作っている人がいるなんて初めて知った。
「メモ魔」といわれる唐九郎さんの几帳面さをその時初めて垣間見たのであった。」
ダイナミックレンジの広い人、だったのですね。
対する白洲さんは、「太陽」巻頭エッセイで書いています。
「「永仁の壷」なんかつくっちゃうから無冠のままだったけれど、かえって野人でよかったと思います。事件のおこる前に、美濃の白山神社に行って鎌倉時代作の「本歌」のほうも私は見てましたが、こりゃあ間違えてもしょうがないというようなものでした。「本歌」とかわりないほどよくできているから。瀬戸ではみんな敵視してたけれど、ちょっと見かたが狭いわね、いいものはいいと認めなきゃ。」
白洲さんの本が売れるのもわかるような気がします。
そして本当にいいものは、真贋論争など蹴散らし、やがて認められる。
なぜ、贋作したのかは、どうもはっきりしないようです。
白洲さんは唐九郎さんからかなり事情を聞いているらしいが、あえて書こうともしていないようです。
どうも軍部の国策で作ったものらしいのですが。
例によって引用を。
織田信長の魅力を二人が語る段で突然あらわれる「戦略」談義。
「加藤 参謀本部の、あの『日本戦史』を一度お読みになるといい。なんかもう、かなわないな。
白洲 面白いですってねえ。
加藤 ええ。あれをね、美濃から出た渡辺錠太郎という大将が教育総監になった時にね、『日本戦史』の改訂をするというんでね、委員を日本中から募ったんですよ。名古屋の方は名古屋の三師団の中にある参謀部で委員を集めて、夏の暑い時じゃった。三週間講義したんですよ。僕も若くて委員に選ばれてね、その講義を聞いたんですよ。それから僕は大部変わっちゃったんです。(笑)戦争というもの、軍隊というものと政治というものと、経済、文化というものとの関係をはじめて知ったんです。政治だけ単独にあるものでもない。政治、経済、文化というものは皆同じものであると。それが結局ね、戦争というものは戦術によって勝ち負けが決まるものであると。しかしそれに応えていくように決定するものは、戦略であると。戦術と戦略とが『日本戦史』に並行して出て来るのです。一方は戦術を書いており、一方は戦略をいっとるんです。戦術というのは兵器が変わるたびごとに変わる。戦略というものは永久に変わらないものである。政治、経済、文化であると。戦術は軍隊でやって行けるが、戦略とは一般庶民と繋がって行かなければ出来ないものであるというふうに書いておるんです。で。渡辺錠太郎大将がそれをやるといっておるうちに、二・二六事件が起きて殺されちゃった。そいで、あれもう出来なんだですね。」
『やきもの談義』 白洲正子(1910- )・加藤唐九郎(1898-1985) 風媒社1997/09/20
1976年駸々堂刊の『やきもの談義』再刊だそうです。
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