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19971203 田坂広志 『複雑系の知 二十一世紀に求められる七つの知』

田坂広志 『複雑系の知 二十一世紀に求められる七つの知』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」 より

 11月25日、『複雑系の知 二十一世紀に求められる七つの知』(田坂広志、講談社)を読みました。

 『フラクタル』(高安秀樹 朝倉書店) 『カオスとフラクタル 非線形の不思議』(山口昌哉 講談社ブルーバックス)が発行されたのが1986年ということで、日本の一般人向けの「カオス・フラクタル・複雑系」系の歴史も10年をこえたといえるでしょう。
 「ポルケ」同人のK村H樹さんたちが始めた、一般市民の「カオス・フラクタル・複雑系」系の勉強会「まとりょうしかフィールド」(略して「まとフィー」)も、研究会を定期的に行っているようです。

 「カオス・フラクタル・複雑系」系の、面白い(不思議な? あるいはやっかいな)ところは、その適用範囲が多岐にわたるところで、特に「複雑系」ということばは、近頃氾濫しております。
 「複雑系の経営」というような使われ方まであるようで、「それにつけても金の欲しさよ」ではないですが、一筋縄ではいかないものには、皆「複雑系」を冠する風潮があるように感じるのは私だけでしょうか?

 という長い前置きの後に紹介するわけですから、『複雑系の知』は当然、自然科学の書ではありません。ビジネス書系の「複雑系」です。

 まず通底に流れるのは「インターネットが変える世界が人間社会を変える」という考え方です。社会分析は悲観論で、心は楽天主義です。モラル保持!

 各章ごとに提示・検証される「知」の数々を見ていきますと。

●序章。
 「いま、なぜ、『複雑系』などという言葉が、知のキーワードになるのか?」
 「この『複雑系の知』が、我々が生きていくうえで、何の役に立つのか?」
 プラグマティストのための「複雑系」本であることが宣言されます。

 「世界は複雑化すると新しい性質を獲得する。」
 これは説得力のあるお言葉。

 「複雑なものには心が宿る」
 文化人類学者グレゴリー・ベイトソンの言葉だそうです。

●第一章 「ポエット(詩人)の知」。
 要素還元主義の限界の限界について言及されています。アーサー・ケストラーの影を感じました。
 レイチェル・カーソンセンス・オブ・ワンダー』がお薦めの一冊として紹介されています。

 小結論。
 部分の単純な寄せ集めが全体ではない。(ヒッポファミリークラブ関係者はここで、妙な気持ちになる)

 「直観は過たない。過つのは判断である。」

 バブル経済期「いけいけ」の判断をして、我々は今冬の季節を向かえているのですが、「なんか変」との直観に従った人はそんなひどい目には遭っていないはず(なのかなあ?)。

●第二章 「インキュベータ(孵化させる者)の知」。
 機械的環境観の限界を打破する仮説として、ジェームズ・ラブロックの「ガイア」思想が紹介されます。

 社会変革のパラダイムの限界、管理主義のパラダイムの限界を打ち破るものとして「創発(emergence)」という言葉が登場します。

 「「部分の単純な挙動が全体の高度な秩序を生み出す」というプロセスであり、言葉を換えれば、「個の自発性が全体の秩序を生み出す」というプロセスである。さらに、このプロセスは、視点を変えれば、「自然に秩序や構造を生み出す」という自己組織化(self organization)と呼ばれるプロセスでもある。そして、こうした性質を「創発性」と呼び、これは、複雑系の基本的な性質にほかならない。」

  ●第三章 「ストーリーテラーの知」。
 河合隼雄さんの仕事を思い起こさせる表題。

 イリヤ・プリゴジンの言葉が紹介されます。
 「自己組織化が生じる三条件「オープン」(開放系)であること、「ダイナミック」(非平衡)であること、「ポジティブ・フィードバック」(自己加速系)が存在すること」

 情報共有から情報共鳴へ。
 再び、プリゴジンの言葉。
 「システムの平衡状態においては、分子は、隣の分子しか見ていないが、非平衡状態においては、分子は、システム内のすべての分子を見ている。そして、このとき、分子は「コヒーレント」(共鳴的)な挙動を示し、システムは自己組織化を生じる。」

 では、社会における情報共鳴を生み出すためには。
 「「言霊(ことだま)」を用いることである。
 生命力を持った言葉を発することである。」

 確かに我々は長く、責任ある立場にいる人々の「生命力を持った言葉」を聞いていない気がします。
 岡田監督は、加茂監督の持ちえなかった「言霊」を駆使しましたね。

 そして、私がこの本をとおして一番心動かされた言葉。
 「物語のもつ「癒しの力」とは何か?
 それは、「信じる力」でもある。」
 「物語を語る人間が、その物語を信じる力なのである。」

 自分の語る言葉・物語を信じる能力のないまま、言語能力だけ発達させた人間が、結果的に人間の関係性を断ち切る方向にしか働かなかった言葉を、一方的に量産してきた歴史の末路。
 「末路」です。新しい歴史を作らねば・・・。

●第四章 「アントレプレナーの知」
 変革を妨げる、「権限の壁」「組織の壁」「情報の壁」。
 それを打ち破るものは、アントレプレナーやイントラプレナー(社内起業家/組織内起業家)の「組織の総合力ではない、個人の共鳴力である」。

 やや理想論であるかとも感じました。

●第五章 「セラピストの知」
 「癒しとは進化である」
 「病は福音なり」

 病んで初めて、進むべき道を知る、ですか。

 「心の生態系は共進化する」
 「部分と全体は共進化する」

 一部の問題を解決しようとしても無理。環境(家庭であれ社会であれ個人であれ)全体が共に進化するかたちで解決の方法を探さなくては、とのこと。

●第六章 ゲームプレーヤーの知
 「世界に「絶対不変の法則」というものは存在しない。」
 なぜなら。社会法則は「自己言及性」を持っているから。

 「法則は変わる、そして変えられる」という主体的な発想を持って、戦略的ゲーム(勝者と敗者、WINとMACみたいな)から創造的ゲーム(社会を能動的に変えていく)へ、移行しましょう、とのこと。

●第七章 アーティストの知
 「未来は予測できない」、これが複雑系の存在によって我々が得た新しい知見。
 「複雑系」の社会は、「摂動敏感性」「自己言及性」「法則進化性」を持っているから。

 「摂動敏感性」は「ミクロのゆらぎが、マクロの大勢を支配する」こと。
 我々は常に、偶然や「縁」「一期一会」が支配する世界に生きている。

 「自己言及性」つまりアナウンス効果。
 マスメディアがこれだけ発達するとその効果はさらに絶大なものがありますね。「うわさ・デマ」を、爆発させるにも、鎮火させるにも。

 「法則進化性」には、ふたたびプリゴジンの言葉を。
 「進化とは創造的プロセスであり、
 進化の未来は予測できない。」

●読後感。

 人間や人間社会は、単純な機械的なものではなく、複雑で有機的なものである、というところから始めましょう、ということでしょうか。

 なんか30年前のフラワームーブメントのころのヒッピーたちの言っていたことが、今ごろスクエアな人たちによって真剣に検討されている感もなきにしもあらず。
 それもそのはず、ヒッピーたちは絶滅したわけではなく、今社会を動かしている年代になっているわけですからね。そう田坂さん(1951年生)の年代。

  この30年は、パーソナルコンピュータ伝播の期間でもあったわけです。
 パソコン(ネットワーク)ほど、複雑で有機的なものはないですね。
 そのネットワークが量的に増加するにつれ、また社会の変化はドラスティックなものになる。

 そこで必要となるのは、直観に基づいた創発の知。

  これもヒッピーさんたちの言っていたことと同じような・・・。

 終章での、クリシュナムルティの言葉。
 「あなたは世界であり、世界はあなたである。
 あなたが癒されるとき、世界も癒される。」


『複雑系の知 二十一世紀に求められる七つの知』 田坂広志(1951- ) 講談社1997

 『カオスとフラクタル 非線形の不思議』 山口昌哉 講談社ブルーバックス1986
 『フラクタル』 高安秀樹 朝倉書店1986


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