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19980108 足立倫行 『妖怪と歩く』

足立倫行 『妖怪と歩く』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」 より

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 1月2日、『妖怪と歩く ドキュメント・水木しげる』(足立倫行 文春文庫)を読みました。

 著者の足立さんは、ノンフィクション作家で、水木さんと同郷の鳥取県境港市生れ。
 水木さんのことは知らない人はいないでしょう、という前提で書かせていただきます。

 カバーには水木しげるという人はいつどこにいても自分の心を楽しませるものを即座に見つけだすことができる。だから幸せなのだと思った。
 『ゲゲゲの鬼太郎』『悪魔くん』『河童の三平』などで知られる漫画家・水木しげるに二年にわたり密着取材し、手塚治虫と並ぶ巨匠の実像を多面的に描く渾身のノンフィクション。」

 印象に残った部分を紹介していきますと。


 若き天才漫画家手塚治虫との確執について語るくだりが面白い。

 水木さんのほうが手塚さんより年長なのですが、華々しいデヴューを飾ったのも、ビックネームになったのも手塚さんのほうが先。
 手塚さんはあんまり若くて重みがないと考えたのか、年を年長にごまかし、水木さんはその逆で若いほうがよかろうと、年少にごまかしていたそうです。

 水木さんによれば、若き大家であるに関わらず、手塚さんは水木さんに会う機会ごとに、冷たい視線を投げかけたのだとか。
 少年漫画雑誌(『マガジン』『サンデー』)の勃興期の誤解をずっと後々まで手塚さんが根にもっていた(水木さんの話によれば)そうで、そのことを今度は水木さんが根にもっている。
 一見手塚さんも水木さんも世間の煩悩とは縁のない方々のようにも思えますが、「人間だもの」だったようでちょっとほっとしました。


 荒俣宏さんの、「水木さんの漫画は、ファインアート(絵画)である」という指摘。
 足立さんはそれを引いて、紙の上での映画作りを目指していた手塚さんとそのエピゴーネンたちとの対比をします。

 先日、水木さんの『猫楠』をご紹介しましたが、鳥取さんの村上さんから「登場する女性の顔がみな同じ」という鋭い指摘をいただきました。
 そんなところに目の行かなかった私は、たいへんびっくりしたのですが、どうも水木さんは、あの一草一木にまで神経が行き届いた背景を描くことに主眼を置き、脇役の人物画なんかはアシスタントの人が描いているようです。

 岩波新書に『妖怪画談』というそれこそファインアート作家水木しげるの本領を発揮した本があります。好評で続刊も出ていましたね。

 水木さんのアシスタントをしていた時代に、あの傑作群を描いたという、つげ義春さんへのインタヴューも読み応えありです。


 水木さんは、ワーカホリック。

 ことあるごとに、南方への憧れをこめて働かないで暮らす地上の楽園を語る水木さんですが、実際は「漫画業界は厳しい世界」という認識をいだいておられ、後進に追い抜かれることを心底恐れているのだそうです。
 よって、普段は朝から晩まで仕事をしている。

 仕事の依頼も断われないとか。いやな仕事も笑ってすませ、という面があって、結果年中仕事に終われている。
 が、胃腸は丈夫。
 うらやましい。


 精霊へのこだわり。

 世界中の民族に共通する、精霊を表現したとおぼしき仮面や偶像の収集が、実は水木さんの本当に興味のある領域のようで、その体力と情熱にまかせ、あらゆる土地を訪問しているそうです。

 『妖怪と歩く』中では、アメリカのホピ・インディアンを訪ねる旅が詳細に書かれています。
 そこでの水木さんは、より「変」です。 


 水木さんは、美人が好きで、本人もそれを堂々と公言し、はばかることなく美人に接近していくのだそうです。
 ただそれは、そのまま「コトに及ぶ」というような「好き」ではなく、熊楠風の「猥談のみ、実行せず」型の「助平」で、文中にはなぜうかつに浮気ができないかを語る水木しげるも登場し、結構笑えます。

 水木さんは四十過ぎまで、極度の貧乏だったそうです。
 水木さんを見習って、明るく元気にやろう(貧乏でも)と年頭に誓った田原でした。

『妖怪と歩く ドキュメント・水木しげる』 足立倫行(1948- )
 文春文庫「あ 22 3」1997/09/10 単行本1994/10文藝春秋
 ISBN4-16-734405-X C0123

20050830 水木しげる=ユング説・亮さんのビリンバウケース・スエイ日記

19980706 水木しげる 『劇画 ヒットラー』

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19971126 水木しげる 『猫楠 南方熊楠の生涯』

19970217 水木しげる 『ゲゲゲの鬼太郎』


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