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19980420 山上たつひこ 『光る風』

山上たつひこ 『光る風』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」 より

*    *

 4月16日、『光る風』(山上たつひこ ちくま文庫)を読みました。

 『がきデカ』=こまわりくんといえば、今だに相当有名な漫画のキャラクターだと思うのですが、その生みの親が山上たつひこさんです。
 その『がきデカ』は1974年に「少年チャンピオン」で連載開始されたそうです。私はそのころすでに漫画雑誌を買わなくなっていましたので、「こまわりくん」にはあまりなじみがありません。
 が、1972年に「漫画ストーリー」に発表されたという『喜劇新思想大系』には大いにお世話になりました。70年代の後半、単行本で何冊か持っていたのですが、何度読み返しても面白かった。エッチでよかったです。今でも読んでみたいです。

 その山上さんの実質的なデビュー作(1970年「少年マガジン」に連載)とも言える作品がこの『光る風』です。これがわずか四年後に『がきデカ』を書く人間の作品だろうか、と疑わずにはいられません。
 ものすごく質の高い、近未来ポリティカル・フィクションです。
 カバーには、「XXXXX年、国家による管理が急速にすすむ日本。元軍人の父、国防大の卒業を間近にひかえた兄に反発し家を飛び出した高校生、六高寺弦。小さな出版社に勤め自立した彼を待ちうけていた社会とは・・・ '70年の時点で日本の最も無惨な未来図を描いた名作。」とあります。

 最近の「少年マガジン」をまったく見ていないので、今少年漫画誌にどんな作品が連載されているのか知らないのですが、1970年前後の時代が書かせた面もあるにしろ、この『光る風』という漫画は、当時も今も、そうとうに知的で完成度の高い作品といえるのではないでしょうか。

 ジョージ・オーウェルの『1984年』もとうの昔に過ぎました。
 近未来ものフィクションを読む面白さは、近過去になったその作品の時代を検証しながら読み返せるところにあるかもしれません。
 そして、すぐれたフィクションは特定の時代の空気を伝えつつも、いつの時代にも通用する真理をちゃんと含んでいる。
 『光る風』もそんな一冊でした。


 例によって引用です。
 彫刻家の高村さんと話す六高寺君の、こまわりくんに語らせたら笑えそうなセリフ。
 「「じつはぼくもいま製作中なんだ」
 「あ! やってるの」
 「それでね高村さん! こんどはじめて自分の作品にテーマらしきものをつけてみたよ」
 「へえ どんな?」
 「青春! ちょっとありふれてるけどね」
 「ありふれてなんかいないさ! そのテーマは新鮮で永遠に尊いものだよ」
 「で具体的にはどんなイメージ! ビャーっと躍動する若者かなんか?」
 「う~~ん・・・ といわれてもまだそこまでいっていないから 具体的にはうまくいえないけど・・・
 ぼくはねえ・・・ いまから三十年以上もまえに日本が戦争のうずのまっただ中にあって すべてが軍国主義一色にぬりつぶされていた時代-- そんな時代に生きた若者たちにたいしてみょうな感情があるんだ!
 言論の自由 思想信条の自由を束縛されやがて戦場へとかりたてられる運命を目の前にしながらも自分たちの青春を生きた若者たち・・・
 声をはりあげて校歌を歌い 肩をくんで山道を歩いていった若者たち・・・
 ほんとうにおかしな表現だけどね! ぼくにはそんな時代の若者がいじらしく感じられるんだよ・・・ ものすごく!
 そんないまの気もちをこんどの作品で表現できたらなあと思うんだ」
 「うむ・・・ わかるような気がするよ でもそりゃたんなる弦ちゃんの感傷だな!すぎさった過去にたいするね
 きみがロマンチストだって証拠だよ 砂糖いくつ?」
 「二つ! ・・・かもしれない ・・・だけど
 いまのぼくがむかしの若者にたいして いだくあわれみにもにた感傷を・・・
 やはり何十年かののちに生きる若者がいまのぼくたちにたいしてもいだくのだろうか? このあわれみにもにた・・・」
 「でも当時のかれらをそんな感情で見つめることができ 同時にいまのきみたちをそんな感情をもって見つめる世代があらわれるかもしれないという そのことに・・多少なりとも気づいているいまのきみたちはまだしあわせだな」
 「そうかな・・・ またかれらだってかれらよりもっと古い世代の若者にたいしてそんな感情をもっていたのかもしれないよ」」


 最後にシンクロ話を。

 利尻島での子供時代、漫画本も滅多に買えなかったのですが、ある日どういう具合か手に入れた一冊の中に、長く印象に残る場面があったのです。
 どこかの監獄に入れられた二人の囚人が、汲み取り便所の下水管に潜水(潜便?)し、脱走に成功するというシーンなのですが、においそうなその絵のタッチが印象的で、前後のストーリーも知らぬまま、ずっと長く頭の中に残っていました。

 が、それがなんと『光る風』の一場面だったのです。
 今回突然そのシーンに再開し、びっくりしました。

 驚いたのは、まず、子供ごころに「それはエログロ漫画だったに違いない」と思い込んでいた漫画が、恐ろしく知的なものであったこと。
 リアルタイムで読んでいるとしたら私は12歳なのですが、全編を通して読んだなら、おそらく何が書いてあるか理解できなかったでしょう。(うんこが汚そう、以外は)

 そして、記憶の不思議。
 「鼻で息をするな! 口でするんだ そうすればにおいはわからない」というセリフにも確かに覚えがある。(そういうもんか、と妙に納得したような・・・)
 そんな記憶の断片がどうやって、どんな形で、この脳味噌の中に保持されてきたのでしょう。

 そして、偶然の不思議。
 「口でするんだ」の記憶をこういう形で皆様に伝達する運命だったのでしょうか。
 近所の江別市情報図書館の新着図書のコーナーで見かけて以来、なぜか読まねばと思い続けていた田原だったのです。

 これであなたの脳味噌にも、否応無し、「口でするんだ」がインプットされたことでしょう。


 『光る風』 上・下 山上たつひこ(1947- ) ちくま文庫 1997/12/04
 上 ISBN4-480-03359-9  下 ISBN4-480-03360-2




 「濃々草」の更新分HTML作成。
 「honyaプロジェクト」honya通信 第2号によれば。
 「『濃々草(こてこてぐさ)』が更新されました
田原ひろあきさんの「濃々草」が更新されました。第97段「つきもの」第125段
「あなたに似た人」第142段「命根性の話」が追加されました。
「命根性(いのちこんじょう)」という言葉は、初めて聞く方が多いのではない
かと思いますが、生活のなかに根ざしつつ、深いことばですね。「死生観」なん
ていう観念語とは違った重さがあります。
ところで、「濃々草」は毎月6日と21日に更新されます。最新の段には、目次の
中にnewマークがついています。」
 久々に買い物。雑誌「BRUTUS」の'98ワールドカップ特集号と鈴木光司『リング』の文庫本。
 夕食を挟んで『リング』を読み終える。

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