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19980706 水木しげる 『劇画 ヒットラー』

水木しげる 『劇画 ヒットラー』
  「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」より

 6月24日、『劇画 ヒットラー』 (水木しげる ちくま文庫)を読みました。

   * [劇画ヒットラー] 水木しげる

 カバーには、「画家への夢が破れた、ハニカミヤで誇大妄想狂の青年は、働く気力をなくし、浮浪者収容所で日々を送っていた。はた目には人生の落伍者にみえた青年アドルフ・ヒットラーが、ドイツ民衆を熱狂させ世界制覇の野望にもえる独裁者となったのはなぜなのか、いったいヒットラーとはどんな人間だったのか。骨太な筆致で描く伝記漫画」


 またもワールドカップの話題です。
 準々決勝「ドイツ対クロアチア」戦。この試合は、昨今のワールドカップでは珍しく、両チーム、すべてのメンバーが白色人種でした。
 結果、クロアチアが勝利し、準決勝に進んだのですが、セミファイナル出場の他の三チーム、フランス、ブラジル、オランダは、黒人選手が大きな戦力となっています。
 フランス・オランダの場合は、かつて自国の植民地であった土地に縁のある選手、ブラジルの場合は昔アメリカ新大陸へ奴隷船で運ばれて行った黒人の子孫が、名誉と金銭を得て活躍しているわけです。

 なぜフランス、オランダ、ベルギーはヨーロッパ圏の国なのに、黒人選手が多いのか?それについて考えるだけでも、ワールドカップを題材に、いろんな勉強ができそうです。

 また、ワールドカップを見ていると、人種差別は歴然としてある、と言わざるをえません。
 「カラード」の監督は、岡田・車の日韓監督以外にいたのでしょうか?
 優れた黒人選手がたくさん輩出されているにもかかわらず、彼等が監督には成りえないのは、何故か?

 ヒットラーは今も、われわれの心の中に生きている、という気がします。


 さて、水木さんの絵ですが、例によって、なんだかへなへな飄々とした人物画の線と、かちっと構成され一点もおろそかにされない点描の風景画の対比が笑えるくらいに見事です。
 ヒットラーはどうみても妖怪の一種ですし、おそらく人種差別の精神とはもっとも遠いところにいる水木さんの手にかかると、歴史上の人物も、なんだか頼りない顔つきの凡人にしか見えません。
 以前、この同報で、荒俣宏さんの「水木しげるはファインアートの画家である」という指摘を紹介しましたが、ところどころに挿入される点描風景画は、確かに立派な絵画です。

 ストーリーを追う形で漫画が読まれるものなら、この過剰な書き込みは不必要なものです。手抜きされてしかるべき部分です。が、水木しげるは手を休めない。
 そしてどうもこの点描画こそが、水木漫画の雰囲気を決定づけている。

 私の勝手な推測。
 水木さんは、戦争で左手を失っておられます。
 片手で紙に絵を描いてみればわかりますが、片手で紙を押さえることなしに、長く強い線を描くことは難しい。しかし点描ならできる。
 手塚漫画に比べて、どうも頼りない人物画はそのへんに由来し、手塚漫画を超えて描き出せる世界の広さ(妖怪・精霊の領域まで)もまたその当たりから来るのではないでしょうか。

 かなり限定された題材を描いている水木さんの漫画に、手塚治虫にはない世界観のダイナミックレンジの広さを感じてしまいました。
 ヨーロッパ圏でそこに住む人々に、手塚『アドルフに告ぐ』と水木『劇画 ヒットラー』を見せたなら、水木さんの漫画のほうがより多くの支持を得そうな気がします。

 『劇画 オウム』書いて欲しいですね。


 『劇画 ヒットラー』 水木しげる ちくま文庫 1990/07/31 ISBN4-480-02449-2 本体価格:476円

 文庫版には、初出がいつ、どこの本なのかも書かれていませんでした。
 書き下ろしなのでしょうか。
 いつごろの作品なのかご存じの方、どうぞご一報下さいませ。



20050830 水木しげる=ユング説・亮さんのビリンバウケース・スエイ日記

19980706 水木しげる 『劇画 ヒットラー』

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19970217 水木しげる 『ゲゲゲの鬼太郎』


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