19990319 三好徹 『チェ・ゲバラ伝』
三好徹 『チェ・ゲバラ伝』
「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」より
1999年03月19日、『チェ・ゲバラ伝』三好徹
を読みました。
帯の宣伝コピー:
「革命のロマンティスト
情熱の生涯
--意志の力、英雄的な精神、そして人間の偉大さが何をなしうる
のかの崇高な証として、永遠に残るだろう。
フィデル・カストロ」
著者の三好徹さんは、1931年生まれの、直木賞作家。
1971年に出版された原本に、コンゴでのチェの行動などを加筆した本。
1997年、ボリビアでチェの遺骨がその死から30年後に発見されたことについての言及もあります。
今週のNHK教育TV「新日曜美術館」は昨年末亡くなられた白洲正子
このブックレビューでも何度となく取り上げてきた文章家です。興味を持ってその番組(のビデオ)を見ました。
その中で印象に残ったのが「初心(うぶ)」という言葉。
白洲さんが骨董品の善し悪しを見るにあたっての判断基準にしていた言葉で、手慣れたわざとらしさがなく、かつ物つくりへの喜びが感じられる作品に与えられる誉め言葉であろうと、私は勝手に解釈。
『チェ・ゲバラ伝』を読み、アルゼンチン生まれのチェ・ゲバラもまた「初心(うぶ)」な人間であったのだろうと感じました。
1958年から59年にかけてキューバ革命を成功させたチェは、その後の国家の最重要人物としての生活を投げうち、コンゴ、ボリビアと革命闘争の一兵士として、過酷なゲリラ戦に帰っていきます。
40歳の誕生日を迎えることなく死した純粋革命家チェと、チェの力を有効活用し革命を成功させ、今だにキューバの最高権力者の位置にある天性の政治家カストロのコントラスト!
どうも私はこの手の「初心(うぶ)」な革新的人間に弱いようであります。
かれらに共通するのは、弱者・マイノリティに対する深い理解と同情、抑圧者に対して抗議する意志の強さ、不正を正すための仕事にかける勤勉さストイックさ、勉強家であること、筆まめ、そして人の心を動かす掴む優れた言葉の使い手であったこと、等々。
今、ぱっと思い浮かぶのは。
「アラビアのロレンス」として有名なT.E.ロレンス
(1888年生まれ)。
キング牧師が活躍した同時期、アプローチこそ違え、やはりマイノリティのために戦うことをやめなかったマルコムX(1925年生まれ)。
そして、ラテンアメリカのチェ・ゲバラ(1928年生まれ)。
アメリカ合衆国1960年代の黒人解放運動家キング牧師(1929年生まれ)。
残念ながら、私のこの国は、今、もっともその手の「初心(うぶ)」な人物が出てきにくい土地なのかもしれません。
今や、滅私奉公できるのは「私利私欲」行為にだけ(笑)といってはいいすぎでしょうか。
かつて確かに滅私する人々も存在したのでしょうが、近年の滅私奉公先を見れば、滅私しないでくれたほうが、世の中良くなってたかもね、というあきらめにもにた感情もわいてきます。
富める者貧しい者の格差も少ない均質な社会ですから、「初心(うぶ)」な革新家が生きにくい生かしにくい。
言論も自由なので、言論統制されていたなら当然蓄積される不平不満は、日々ガス抜きされる。(久米宏さんがあの口調であの番組を続けてきた年数があれば、小ゲバラはそろそろ青年に達するはずなのですが)
自己責任・自由競争の社会になって強者弱者の区分けがはっきりして、弱者でもこのメールのような極小メディアを持てるような世の中になって初めて、ゲリラ活動が有効になるのかもしれません。
この国に関しては。
INTERMISSION
■チェ・ゲバラに関するページ。フィデル・カストロへの別れの手紙原
文から、遺骨の写真(!)まで。
http://www.che-lives.com/home/
■山崎カヲルさんのページ。ラテン・アメリカに関する情報多し。
http://clinamen.ff.tku.ac.jp/
例によって引用を。
「一九六〇年、バレルはアルゼンチンを出てハンガリーにいるのだが、使節団長としてハンガリーを訪れたチェは、新聞記者から幼少時代の友人だったバレルがいると聞いて、食事カードに走り書きのメモを残す。
親愛なるフェルナンド
きみには、ぼくがぼくだということについて確信をもてないでしょうが、それ(エルネスト・チェ・ゲバラ)はぼくだったといまではわかっていると思う。しかし、それは事実とは違っている。なぜなら、多くの水が橋の下を流れ、きみがかつて知っていた喘息もちの個人主義者についていえば、面影をとどめているのは、喘息だけだからだ。ぼくは君が結婚したと聞いている。ぼくもそうだ。子供はふたりいる。ぼくはいまだに冒険家ではあるけれど、いまのぼくの冒険は正義を追い求めることだけだ。きみの家族に、過去の時代の生き残りの名前で挨拶を、チェからは友愛の抱擁を。チェはぼくの新しい名前になっている。」(「第一章 メキシコまで」26P)
「カストロは、たしかに天性の革命家であった。かれは、確信にあふれた口調で、生き残った他のものにいった。
「これで、バチスタの命数はつきたようなものだぞ。おれたちはきっと勝つ」
聞いていたものは、チェをふくめて、昂然たる面もちのカストロを見つめた。キューバ人がいかに楽天的であってもこの言葉をうけ入れることはできなかった。空元気もいいところだ、と誰もが感じたし、なかにはカストロは気が狂ってしまったんだ、とおもったものまでいた。
(中略)
チェ自身は、二十人足らずの同志を前にしてのことカストロの言葉に、やはり驚いたひとりだった。かれはそれをキューバを去るときにあたって、カストロに送った別れの手紙の中でも、「ぼくになんらかの誤りがあったとするなら、それは、シエラ・マエストラの初期のころ、きみにじゅうぶんな信頼を置かなかったことと、指導者ならびに革命家としてのきみの素質を、さほど早く理解しなかったことだ」と率直に書いているが、これはカストロのあまりな楽天主義に対する驚きと失望も含まれていたであろう。
バチスタの命数はつきたようなものだ、といかにカストロがいったとしても、客観的な情勢としてはそれが強がりに聞こえるのは当然だった。かれらの数とバチスタ軍の数とは、一対千なのである。その上、相手には戦車も飛行機もある。
しかし、カストロは、将来に対する正確な見通しを持っているという点において、すぐれて革命的であり、かつまた革命家そのものだった。」(「第二章 グランマ号」133P)
「歴史は多くの革命家をもったが、いったん権力を手にした革命家みずからその地位を放棄して、困苦にみちた新たな戦列に加わったという例はかつてない。
チェがそれをなした史上最初の革命家であった。もしかすると、ドン・キホーテになりかねないその生き方がこの稀有の革命家に天があたえた道なのかもしれなかった。
もとより、チェ自身にもそれはよくわかっていることであった。かれは、カストロあての手紙を書きあげると、両親あてにも手紙を遺した。
--もう一度わたしは足の下にロシナンテの肋骨を感じています。
盾をたずさえて、再びわたしは旅を始めるのです。
十年ほど前、わたしはもうひとつの別れの手紙を書きました。想い出すけれど、私は自分が立派な兵士でもよい医師でもないことを残念がっていました。いまはよい医師になろうとは決して考えていませんが、兵士としては悪い方ではありません。
私がより自覚的な人間になったことを除けば、本質的に変ってことは何もありません。わたしのマルキシズムは深まり、純粋になりました。わたしは、自由のために戦う国民によって武装闘争が唯一の方法だと信じていますし、この確信に従って行動するのです。
多くの人は、わたしのことを冒険家というでしょう。わたしはそうなのです。しかし、違った種類の--自分の信念を証明するために命をも賭ける人間なのです。もしかすると、これが最後になるかもしれません。自分で望んでいるわけではないが、論理的にはそうなる可能性があります。もしそうなら、あなた方に最後の抱擁をおくります。
わたしは、あなた方を心から愛していました。ただ、その愛情をどう表現したらよいのかを知らなかっただけです。わたしは自分の行動に厳格さをもっているので、理解してもらえなかったことがあったと思います。わたしを理解していただくのは容易ではないのですが、いまは、わたしを信じてほしいのです。
芸術家のような喜びをもって完成を目指してきたわたしの意志が、なまってしまった脚と疲れた肺をささえてくれるでしょう。
この二十世紀の小さな外人部隊長(コンドテイエリ)をときどき想い出してください。セリア、ロベルト、ファン=マルティン、ポトティン、ベアトリス、そして皆さんにキスを送ります。
そしてあなた方には、おふたりの強情な放蕩息子から大きな抱擁を送ります。
エルネスト 」(「第四章 別れの手紙」254P)
「共産主義実験の時代」20世紀ももうすぐ幕を下ろします。
どれほど優れているように見えようとも、それが教条主義になってしまったなら、イデオロギーは人殺しの怪物になると、われわれは百年近くかけて勉強したわけです。
チェのような有為の人物が生まれ、有為な行為に日々を費やすことを祈りたいものです。
「初心(うぶ)」な世界、のやがて来たらんことを。
三好徹(みよし・とおる1931- ) 原書房1998/07/21---ISBN4-562-03100-X
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