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19990515 村上春樹 『約束された場所で underground 2』 / J6

村上春樹 『約束された場所で underground 2』
 「ポルケ・ブック・レビュー http://www.booxbox.com/porque/」より

 1999年04月30日、『約束された場所で underground 2村上春樹(1949- )を読みました。

   * [約束された場所で―underground〈2〉] 村上春樹

 1997年に発表された『アンダーグラウンド』の続編。とはいうものの、正・続の間の不連続性は際立っています。

 地下鉄サリン事件の被害者60余名へのインタビュー集『アンダーグラウンド』に対して、『約束された場所で』は、オウム真理教の信者(元信者)との対談をまとめたもの。

 前書では、その内容の重さ・陰惨さにも関わらず、読後ある種のすがすがしさを感じることができました。自分の所属し、生きている社会が信頼するに足るものである、とまで感じました。

 というもの、言ってみればいわれなき闇討ちにあったはずの被害者の皆さんが、事件後も事件前同様、ささやかではあっても確固とした市民生活を営もうとする姿に、この社会の健全さ・良心に触れる思いがしたからです。

 それに対する大メジャー作家村上春樹氏のインタビュイーとしての態度にも大いに共感しました。
 たとえば、ユーザーさんを戸別訪問して、自社OSの動き具合をカウンセリングするビル・ゲイツ(そんなんありますかいな。笑)。

 その取材者と被害者の良き信頼関係が『アンダーグラウンド』の読後感の良さの一因になっていたと思います。
(『アンダーグラウンド』は文庫本になったようです。一読をおすすめします。)


 それに対して、『約束された場所で underground 2』は、居心地の悪くなる本です。

 まず、オウム信者(元信者)の言うことが、正直、気持ち悪い。

 前回の[PORQUE?]でも書きましたが、『約束された場所で』を読む限り、信者・元信者ともに、頭のどこかで、一般ピープルよりも、自分(たち)のほうが、精神的に次元の高い場所にいたと思っているらしいこと。大きな勘違いだよね。

 まあ、そういう「もののふ」「サムライ」的身分であるなら、何か事を起こした際は、さっさと一族郎党腹切って死んでくれればいいのだけれど、自分(たち)の責任に関しては、まったく、都合よくも、想像力が働いていないこと。

 なら自給自足でもして、どこかにお隠れあそばせばよいのに、資金だけは、信者のワークという名のもとの無償労働によって、現世から調達する。宗教的な高い次元に働くらしい高級な脳味噌が、単なる人殺し(しかしやり方は残忍)の良し悪しに関しては思考停止する。

 自然じゃない。


 と言い切っておしまいなら、読後二三日で、腹立ちも紛れましょう、ということですが。

 いまどき、自然な言葉を持って生きる人間なんて、存在するのか?と考え始めるともういけません。

 たまたま、模擬自然な言葉を巧みにあやつる、ストーリーテラー麻原くんに出会わなかったから、「こちら側」にいるだけではないのか?
 不自然な「物語」に対抗しえるだけの、自然な言葉を自分は持ち合わせているだろうか。

 結局、男性に学歴・女性に美貌を求めただけのコミュニティー作りに麻原は失敗したのだけれど、その原形は、私たちの生きる「世間」の中にあることを、みんな知っているんじゃないの?


 巻末には、河合隼雄氏と村上春樹さんの対談がおさめられています。

 普通の人間の普通の言葉で語られていて、ほっとします。

「河合 そうですよね。瞑想なんかしていると、いつ終わるんかいなとか、うまい飯を食いたいなあとか(笑)。つまりね、それがもっと普通の人になると、儲けることとか税金とかで頭が一杯で、もう宗教なんかいらんということになってしまうわけですよ。そっちがものすごう大きくなるから。で、「霊的」なことなんかぜんぜん関係なりに生きているということになる。まあそこまではいかないにせよ、我々がちょっとくらい瞑想の真似したって、僕らにも煩悩があるからなかなかうまくいかないんだけれど、その「煩悩をもってなおかつ」というのが大きな意味を持つんです。ところがこの(オウムに行った)人たちは煩悩の世界が弱すぎるんです。
村上 だからすぐに悟っちゃう。あまりにもすぐに悟っちゃう。

河合 面白いことに、あまり早く悟った人というのは、その悟りを他人のために役立てることができない場合が多いです。それに比べると、苦労して時間をかけて、「どうしてこんなに悟れへんのやろう。どうして自分だけあかんのやろう」と悩みながら悟った人のほうが、他人の役に立つ場合が多いんです。煩悩世界を相当持っていて、なおかつ悟るからこそ意味があるんです。」
(「悪」を抱えて生きる 250-251P)


INTERMISSION
■ http://door.opendoors.eccosys.com/span/asahido/
村上朝日堂のホームページ
 村上春樹さんが「関西人」であることを確認できます。
 「アンダーグラウンドフォーラム」、最新作『スプートニクの恋人』のフォーラムもあります。

http://booxbox.cocolog-nifty.com/tahara/1997/06/19970602_49c6.html 
 『アンダーグラウンド』について書いた[PORQUE?]。
 北海道に移住して、一番さみしいのは「阪急電車内読書」ができないことですね。


 例によって引用を。
「--あの、あなたは小説って読めないでしょう?

 ええ、小説読めないです。三ページくらいで忍耐力に限界がきちゃいます。

 --僕は小説家ですから、あなたとは逆に測定できないものをいちばん大事に思っているわけです。もちろん僕はあなたの生き方や考え方を否定しているわけじゃありません。否定でもなく肯定でもない、いわばニュートラルな立場でお話をうかがっているわけです。しかし世の中の人々が送っている人生の大部分は、測定できない雑多なものごとで成り立っているわけです。それを根こそぎ測定可能なものに変えていくというのは、現実的に不可能なことでしょう。

 ええ。そういう雑多なものごとが無価値だと思っているわけではないですが、ただ今の世の中の状況を見ていると、あまりにも余計な苦しみが多いというふうに感じるんですよ。苦しみの原因になるものを、社会の中にどんどん増やしている。そしてそういうコントロールのできない欲望が人々を苦しませている。たとえば食欲とか性欲とか。

 オウムがやったのは、そういう精神のストレスをどんどん下げていって、それによって一人ひとりの力を増大させていくということです。信者から見たオウム真理教のイメージは九九パーセントまでそれです。精神的な現象と物理的な現象に対するものの見方。それに対する改善法、解決策。内側から見れば、これらのセットがオウムなんです。組織がどうこうとか、終末思想がどうこうというのは、マスコミの描くオウムです。私のまわりではノストラダムスの予言について真剣に考えている人間なんていません。ああいうレベルのことでは、誰も納得なんかしません。

 私がやりたいのは輪廻とかカルマとか、そういう東洋思想をひとつひとつ、少しでも理学的に体系化していくことです。たとえばインドなんかに行けば、それを生活の中で頭からしっかりと信じ込んでいる人たちがたくさんいますね。でも先進国の人たちがそういうものを理解して納得して受け入れるには、しかるべき理論化が必要な時代になってきていると思うんです。」
(33-34p 狩野浩之さんへのインタビュー)


「--けしからんと思っているわけじゃないですが、公式なかたちで自分たちがやったことの総括も反省も謝罪もしないで、そのままずるずる活動を続けるというのでは、世間の誰も納得しないと思いますよ。「あれは別の人たちがやったことです。教義は基本的に間違いはありません。私たちも被害者です」なんていう単純なことではないと僕は思います。教団の体質なり、教義の成り立ちなりの中に、危険な因子が含まれていたはずなんです。教団はそれを総括して世間に発表する義務があると僕は考えています。その上で、自分たちの考える宗教的な活動を続ければいいんじゃないですか。

 少しずつ、全部じゃないけれど、それを中間報告的にやろうとはしているんです。なかなか完全な総括まではいかないですけれど。でもそれを発表してくれるようなマスコミがないんです。私たちも、間違ったところがあったらどんどん教えてほしいの思っています。でも日本の仏教界なんか当らず触らずで、何も言わない。

--それはあなた方があなた方の言葉と文法でしか話そうとしないからじゃないですか。普通の言葉で、普通の論理で、普通の人に話せるようにならないと駄目でしょう。上からものを言おうとするから、誰も聞こうとしないんですよ。」
(87-88p 稲葉光治さんへのインタビュー)

村上春樹(むらかみ・はるき1949- ) 文藝春秋1998/11/30---ISBN4-16-354600-6




 Jリーグの発足試合以来、ちょうど六年とか。
 TVで、鹿島アントラーズと浦和レッズの試合を観戦。
 小野伸二がFKを決めて1対0で浦和久々の勝利。
 六年前、彼は中学生だった。ジーコなんか現役でやってた。

 夜定例ヒッポ。

 PORQUE? Book Review 、村上春樹『約束された場所で underground 2』。

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