20070123 クリストとジャンヌ=クロードは・1935年6月の・まったく同じ日に生まれた
毎週火曜日・午前十時半は、ブックスボックス 田原ヒロアキの、FMアップル「田原書店ノマド」の始まる時間。
2007年1月23日の放送では、28日まで 札幌宮の森美術館 * で開催中の「クリストとジャンヌ=クロード 1958-2006展」を、放送の相方・福津京子さんと18日に訪問してのレポートを、お届けしました。
20年以上にも及ぶ交渉活動の末、昨年春、ニューヨークのセントラルパーク全域を使って実現したプロジェクト「ゲーツ、ニューヨーク市、セントラルパーク、1979-2006」は、わずか2週間という短期間に400万人以上もの観客を集めるという大成功をおさめました。同時にこの作品は、世界中の美術ファンに、現代美術の世界でも最もユニークな活動を続けるこのアーティストの健在ぶりを知らしめ、さらに彼らの創造する「美」がもっている、見る者、体験する者を巻き込んでしまう力強いパワーを再認識させるものでした。「クリストとジャンヌ=クロード1958-2006」展は、四半世紀以上に亘り彼らと共に仕事を続け、多くのプロジェクトにスタッフとして係わってきた、ニューヨーク在住の美術評論家、柳正彦氏をゲスト・キュレイターに招きアーティスト本人の全面的な協力の下に実現したものです。
「1958-2006」というタイトルが示すように、今回の展示には、故国ブルガリアからチェコ、オーストリアを経てパリへと亡命を果たしたクリストが、包まれたオブジェやパッケージといった作品の制作を始めた、まさに、その年の制作になる重要な作品が含まれています。 「包まれた缶と、瓶1958-1959」というタイトルが付けられた、彼らのアートの出発点とも呼べるこの作品は、キャンバス布で包まれた缶が2個、黒いラッカーで塗られた缶が2個、それに顔料が入った瓶が1本、合計5個のオブジェによって構成される作品です。(これらは長くクリストとジャンヌ=クロードの自宅に飾られてきた、彼らにとっても特別な思い入れのある作品です。)
この他、「パッケージ」、「包まれた雑誌」といった、日本では殆ど実物を見る機会のない60年代、70年代に制作されたオブジェ作品も展示が予定されています。また、63年にニューヨークに移り住んだ頃から集中的に制作された、ストアフロントのドローイングやマルチプル作品も含まれています。ショーウィンドウのガラス面を布や紙で遮蔽するこのシリーズは、後のヴァレー・カーテンやランニング・フェンスへと繋がっていく重要なものです。
これら、初期の作品群は、クリストとジャンヌ=クロードの創造の歴史の出発点を紹介することになりますが、しかし、クリストの創作活動はスタジオ(アトリエ)という狭く、限定された空間の中だけにとどまることはありませんでした。生活の面でもパートナーとなったジャンヌ=クロードと出会って共同制作を開始し、屋外の日常空間の中に創作の場を広げていったのは、1961年頃のことです。それが、やがて、現代美術の世界で確固たる地位を彼らに与えることになったのは言うまでもありません。
1961年、ケルンでの「埠頭のパッケージ」、62年、パリでの「ドラム缶の壁、鉄のカーテン」によってスタートした彼らのプロジェクト、すなわち、屋外での、一時的な、芸術作品(outdoor, temporary, work of art)は、60年代末からさまざまに展開し、アメリカ国内だけでなく、オーストラリア、ドイツ、フランス、日本などで実現されてきました。
しかし、通常は2週間、例外的なものでも数ヶ月間だけしか存在しないこれらのプロジェクトを実際に目にし、体験出来たのは、アートファンの中でも、限られたラッキーな人たちだけです。(68年には、スイスのベルン市とイタリアのスポレット市でほぼ同時期に別々のプロジェクトが実現したため、ベルンにいたクリストはスポレットのプロジェクトを見ることなく終わり、またスポレットのジャンヌ=クロードは、ベルンを見ることはなかったということです。)
そのため、今、私たちが出来るのは、プロジェクトの構想段階でクリストが描いたドローイング類と、実現したプロジェクトを捉えた写真などの記録画像を通しての疑似体験しかありません。今回の展示では、 包まれた公共建物のプロジェクトとしては最初に実現した、「包まれたベルン市立美術館、1968」から、「包まれたシカゴ現代美術館、1969」、「包まれた海岸線、オーストラリア、シドニー郊外、リトル湾、1969」、「ヴァレー・カーテン、コロラド州、ライフル、1970-72)」、「ランニング・フェンス、カリフォルニア州、ソノマとマリン郡、1972-1976」、「囲まれた島々、フロリダ州、マイアミ、ビスケーン湾、1980-1983」、「包まれたポン・ヌフ、パリ、1975-1985」、「アンブレラ、日本-アメリカ合衆国、1984-1991」、「包まれたライヒスターク、ベルリン、1971-1995」、そして「ゲーツ、ニューヨーク市、セントラルパーク、1979-2006」、まで、クリストとジャンヌ=クロードの主要なプロジェクトを、クリストによるオリジナル・ドローイング作品やコラージュ作品、彼らの専属写真家であるウルフガング・フォルツ他の撮影による写真作品によって展覧、さらに、クリストとジャンヌ=クロードが現在取り組んでいる、最新プロジェクト、「オーバー・ザ・リバー、コロラド州、アーカンサス川のプロジェクト」も、今年に入って描かれた最新のドローイング作品他を展示します。
小学校に入学する前から美術専門の家庭教師から絵を習い始め、ブルガリアでのアカデミックな美術教育で修得した技術をつかって、人々の想像を超えるプロジェクトのアイデアを具現化したクリストのドローイング作品群は、プロジェクトの構想図であると同時に独立した作品でもあります。その卓越した描写力は多くの美術ファンを唸らせることになることでしょう。
開館時間 :11:00~19:00 休館日 : 月曜日
1月8日開館 12月28日ー1月5日まで休館
観 覧 料 :一般800円 高・大生600円 中学生以下無料
主 催 :クリストとジャンヌ=クロード展 実行委員会
札幌宮の森美術館
(札幌宮の森美術館ホームページより)
クリストとジャンヌ=クロード wiki *
田原書店外伝中の「クリスト」:20050913 三月十三日・江別=千歳=成田=・ニューヨーク
田原のセレクト曲:
1. 「POLEGNALA E TODORA 恋歌(トドラは夢みる)」。 CD 『Le Mystere des VOIX BULGARES』 * (ブルガリアン・ヴォイス ブルガリアの声の神秘)より。
2. S.U.M.O. 「Samba Consumo」。NICKODEMUS & MARIANO - CD『 TURNTABLES ON THE HUDSON 5』 * より。
FMアップル:http://www.765fm.com/ *
「田原書店ノマド」は、ブックスボックス/田原書店の田原ヒロアキ * が担当する、音と言葉の情報番組。
毎週火曜日午前十時半から。
インターネットで聞けます(見られます):
http://www.channel-apple2.com/streaming_apple.html *
出演:田原ヒロアキ@ブックスボックス
福津京子さん:http://www.fukutsu.net/ *
どうぞお楽しみください!
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