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20070220 日向子・東京タワー・江戸オタク

 毎週火曜日・午前十時半は、ブックスボックス 田原ヒロアキの、FMアップル「田原書店ノマド」の始まる時間。

 2007年2月20日の放送では、杉浦日向子 wiki さんの話をしました。
 日向子さんの本は、ブックスボックス 田原書店でも常備在庫を心掛けています。



 田原のセレクト曲:映画『東京タワー』 * 主題歌(下記の杉浦日向子さん文引用をご参照ください)(1)と、「東京一は日本一」バンドの「オタク」に関する曲(江戸オタクだった、万博世代=第一次オタク世代の杉浦日向子さんに捧げます)(2)
 1. FOREVER MINE / 山下達郎 *
  CD 「SONORITE」 *

  

 2. マニアの受難 / ムーンライダース *
  CD 「DON'T TRUST OVER THIRTY」 *

  



   *

「日曜日の日本」杉浦日向子
 江戸時代というと何か、SFの世界のように異次元じみて感じられます。
 自分の父祖が丁髷を結ってウズマサの撮影所のような町並みを歩いている姿など実感がわきません。がたしかに江戸と現代はつながった時の流れの上にあり、丁髷の人々が生活した土地に、今わたしたちもくらしています。
 遠いところの遠い昔の話のようでも、この場所でほんの百二十年前の父祖たちの話なのです。

 私の大好きな、そして大切な篠田鑛造氏の著書の中に「明治維新の新体制は、極めて強圧なものであった。どう強圧であったかは、江戸期の旧文物を片端から破砕して、すべて新規蒔直しといった時代を建設したからである。」とあります。江戸期の風俗・文化に触れる時、この百二十年間の猛進は何だったのだろうと、ふと思います。
 藤村が「夜明け前」を著わしたように、近世つまり江戸は<暗黒の時代>のように思われがちです。芳賀徹氏はこれに対し、近世が日曜日であり、近代=明治維新は<月曜日の夜明け>だとたとえています。私はこの云い方がとても好きです。

 日曜日の日本に生きた父祖たちに会いたい、縁側でお茶でもすすりながら話をしたいと思っています。
 私がこういう作業をしていく原動力は、この<想い>に他なりません。
 <日曜日の昔話>、これからも拾い集めていきたいと思っています。」
(『合葬』 * あとがき)
   *

 「東京大空襲の時、本所緑町に住んでいた母の親戚は全滅した。兵隊だった父は焼跡を駆けずり回ったという。なんだか、どこもかしこもだだっ広くなって、視界をさえぎるものは何もなく、西に富士山、東に筑波山が毎日きれいに見えたそうだ。
 焼跡の映像や写真を見るたびに、なつかしい気持ちでいっぱいになる。凄惨な焦土というよりは、広々とした彼方の富士と筑波の光景ばかりが、きわめて鮮烈なデジャヴとして眼前に浮かぶ。町を歩いている時にもふいにあの光景がフラッシュバックすることがある。高層ビルに登った時などは尚更だ。
 どうしてこんなにも焼跡の東京がなつかしいのだろう。あれに接するつど、感情は体からこぼれるほどにふくらんで、のどがつまり瞳はうるんでしまう。
 安治の描いた東京風景を見た時に、焼跡の映像や写真を見た時と同じ感覚をおぼえた。
 安治の絵は何事もないように描かれている。網膜に映った光線をそのまま紙に現像したように描かれている。江戸を、東京を描いた多くの絵が、時代のドラマを写す「創作」であったのに、安治のは町がただそこにあるように描かれている。そんなふうに描かれた安治の東京の向う側には武蔵野の原野が透けて見える事に気が付く。開化の東京を描きながら、安治には原野が見えていたのではないか。
 原野と焼跡はとても良く似ている。
 安治が見た(はずの)原野は、やがて来る焼跡の「未来からの記憶」なのではないだろうか。とすれば、今現在、東京のビル群にオーバーラップする「焼跡」の示すものは何なのだろう。
 
 先年、生まれてはじめて東京タワーに登った。子供の頃「東京タワーの根元で生まれた」と自慢した。それじゃまるでモスラのようだが、愛宕下で生まれたというだけのことだ。それでも親から「お前はタワーの根元で生まれた」と教えられて育ったのだから仕方がない。引越は何度もしたが東京を離れることはなかった。どこからでも、まずタワーをさがした。そんな「へその緒」のようなタワーだったが登ることは思い付かなかった。
 たまたま近くに着合せて、せっかくだからと登ってみた。終了時間ギリギリで駆け込んで切符を買った。風の為か二百五十メートルの展望台は揺れていた。虫かごに入れられて巨人に釣り下げられているみたいだった。眼下の夜景は、縁日の露店で買ってもらったビーズの詰め合せを、転んで地面にぶちまけたように切ない眺めだった。今にも東京湾から高波が寄せて来てビーズの粒々をさらって行ってしまいそうだった。高波の引いた後は、やっぱり何もない広々とした地面だろう。
 東京はいつでも原野(焼跡)に戻る用意があるように思われる。たぶん、それは、はるか昔からの約束なのかもしれない。
 だから、東京タワーの根元にモスラがマユを作ろうと、東京湾からゴジラがやって来ようと、大地震で都心が壊滅しようと、原発事故で全都被爆しようと、その時、私達は決してそれを夢だとは思わないだろう。
 その時まで原野の上で夢を見る。原野が私達に夢を見させる。」
(『YASUJI東京』 * あとがき)



 FMアップル:http://www.765fm.com/ *

 「田原書店ノマド」は、ブックスボックス/田原書店の田原ヒロアキ * が担当する、音と言葉の情報番組。
 毎週火曜日午前十時半から。

 インターネットで聞けます(見られます):
  http://www.channel-apple2.com/streaming_apple.html *

 出演:田原ヒロアキ@ブックスボックス
  福津京子さん:http://www.fukutsu.net/ *

 どうぞお楽しみください!

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