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20071202 賢者の言葉・『河合隼雄を読む』 より・森毅「ホラの力によって人間は生きていく。――ウソツキクラブ短信」

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『河合隼雄を読む』 (講談社 1998)より、森毅「ホラの力によって人間は生きていく。――ウソツキクラブ短信」。
「 この本には、ぼくの『現代虚数学』(教学研究社)が出てくる。これは、湯川秀樹との対話がきっかけで生まれた。

 はじめて大先生と話す機会のできたとき、湯川さんとのつきあい方のコツを先輩に教わった。先輩の話では、二乗すると-1になる、という虚数が湯川さんは大きらいだから、虚数を口にするときは気をつけろとのこと。「なんで、量子力学にが出てこんならんのや」と、ブツブツこぼしている大先生を目にした人が複数いる。

 逆にが好きな人もいる。若くして死んだ友人で、小針晛宏という国際政治学者は、π=-1という式が好きで、「ベニスの商人の作ったと、エジプトの測量師の作ったπが、アイを媒介とした物語」として、中東問題を論じていた。

 実際に湯川さんと話してみたら、気にするほどのこともなかった。

 「森くん、君は輪廻転生を信じてへんやろ。そら、楽観論やで。わしはなあ、死んでからブタになるかもしれん、思うたら気になってなあ。しかし、この年になったらだんだん悟ってきたのか、ブタになったら、それもええやないかと思うようになったわ。数学かてそうや。若いことは虚数なんてのが気にいらんかったけど、このごろは、で量子力学の物語ができるんやったら、ええこっちゃと思うようになったわ」

 ブタと虚数のつながるところがスゴイ。湯川さんがなくなったあとで、柄谷行人と中華料理を食いながらこの話をしたら、そのころ占星術に凝っておった柄谷の説では、湯川さんはブタに生まれかわっていないそうで、二人で安心して豚を食べた。

 話は変わって、戦後の北白川の豆腐屋の二階の下宿で(累物語みたいですなあ)、河合雅雄に隼雄という、兄弟の京大生(合わせてキョーダイ2生)が、夜を徹して議論をしていた。話すことは、「人間とはなにか」。まあ、そうした時代だったんです。夜が白むころに啓示が訪れたのだが、睡魔のほうがちょっと先行したので、本人たちは記憶していない。それは、「ヒトは物語をつくるサルである」。

 その啓示が二人の未来を決定したということを、後世の伝記作家は銘記したほうがよい。さて話は変わって(しょっちゅう話が変わるところが、夢の物語に似ている)、十九世紀最大の物語作家カールの少年時代。

 意外とカールは、男の子たちと陣とりごっこをするのに興味がなく、関心はもっぱら隣りのローザにあった。ローザはカールの物語が大好きだったのに、カールも時代の子、「ヒトは物をつくるサルである」という時代風潮にかぶれて、人形を作ってローザにプレゼントしようと考えた。しかし、不器用なカールはアイデアだけあっても、なかなか作品にならない。

 「物を値うちは、それを作るのにかけた時間で定まる」とカールが言ったのは、このときと思われる。そして、カールのアイデアをうまくまとめて作品にしたのは、いつも友人のフリードリヒだった。「人類の歴史は、物を騙る歴史である」というカールの言葉には、いくらかそのときの屈折がこめられている。カールは成人してからも、物を語る能力は向上しても物を騙るほうはさっぱり、貧乏の末にフリードリヒにたかることによって一生を送ったのだから。

 しかしながら、そのカールの物語が、二十世紀の歴史を支配したことはよく知られている。物語にあって、ホラにすぎぬと言うものではない。ホラこそが力である。

 ホラは理想ではない。理想になると、ついそれを目標として、身を誤ることにもなる。ホラを虚の力としながら現実を扱うことこそ、現実主義というものだ。

 理想と現実なんて言っても、一列にならんでいてはひろがりを持たぬ。それを二焦点などと言うが、楕円の二焦点は、長軸上にならんでいる。たしかに中心が一つよりは二つのほうがよくて、そのためにふくらんでいるように思いかねない。しかしながら、本当のところは、楕円には四つの焦点があって、短軸上の二つの虚の焦点の圧力によって、楕円はひしゃげているのだ。ホラの力というのは、虚の力なのである。(詳しくは、拙著『現代虚数学』参照)

 なぜ人間が物語を必要とするかは、物語が生みだすホラのゆえだろう。人間には、真実に直面することを避ける防衛本能が備わっているが、この本能が欠如すると真実強迫症になる。芸術や学問というもの、もっと一般的に文化というものは、真実を追究するためにあるのではなく、物語によって人間を保護するためにある。そして、物語のなかのホラの力によって、人間は生きていく。

 話が真実味を帯びて、マジメっぽくなってしまった。湯川さんの物語から始めたので、湯川さんの物語で終わることにしよう。なくなる直前の桑原武夫に聞いた話。

 湯川さんと桑原さんの二人のトークがテレビであったのだそうだ。ビデオのない時代の生放送。時間を気にしながら調整しなければならないのだが、これはもちろん桑原さんの役どころ。ところが本番が始まっても、湯川さんはなかなか乗らないので、桑原さんが気をつかって盛り上げていたそうな。ところが途中で、湯川さんが俄然乗りだした。こうなると止まらない。桑原さんが足で合図したって知らん顔。

 あとで湯川さんのいわく、「今日は楽しかったなあ。君も夢中になって、ぼくの足を踏んでいるのに気ィつかへんかったやろ」。」

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