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20080427 賢者の言葉・野口晴哉・「空想を方向づける技術」@『風邪の効用』

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  『風邪の効用』 野口晴哉 (ちくま文庫 2003) より、

 「空想を方向づける技術」を引用。 

 風邪のような場合でも、そういう心理的なものの処置の方法はいろいろあって難しい問題がたくさんありますが、そういうものを憶えていても仕方がないから、ともかく空想を方向づけるということを憶えて頂きたい。この空想の方向づけということが一番大事な技術であって、これに乗って愉気法を行なうということが一番よい。これを他の方向に空想をやってしまって愉気法を行なって、それが上手にいっても、その効果はなかなかハッキリしないということが出てくる。愉気法に限らず整体指導には、空想を方向づけるという技術がないと、相手も治してもらうつもり、こちらも良くするつもりでいても、一生懸命やればやるほど「こんな一生懸命にやってくれるのは、悪いからじゃなかろうか」などと思わせたり、思い込ませたりして悪くしてしまう。
 寝小便でも同じで、寝小便を治すなどと一生懸命整体すると、相手の心に「私は寝小便をする」という空想をいよいよ固定させてしまう。寝小便の治療などということを言わないでいれば何でもないが、「寝小便を治療する」などと言われると、その時までは俺は時々寝小便をすると思っていたのが、「俺は寝小便たれだ」などと自分で思ってしまい、「寝小便をしているなんて……何て俺は馬鹿なんだ」と思い込んでしまう。
 観念はそういうヒョッとした時に確立してしまう。空想が確立するというが、本当は空想の方向が確立するのです。子供が何かし損ねた時に「しくじったな」と言えばいいのに、「お前は何て頭が悪いの」と言う。そうすると「ああそうだ」と思ってしまう。「頭が悪いから試験に落ちたのよ、しっかり勉強なさい」と親は言う。けれどもすでに頭が悪いと方向づけてしまって、だからしっかり勉強しろと意志の努力を強いるのは、人間の心の構造を知らない人である。
 人間は自分のごく小さな動作でも、一旦空想に方向づけられてしまうと、意志では訂正できないのです。だから「頭が悪い」と方向づけて、「しっかり勉強しろ」と言うと、親の目を盗んで遊ぶとか、成績が落ちるとか、机に向かうと居眠りばかりするとか、そのうちに勉強が嫌いになるというようになっていくわけです。親は発奮させるつもりで「馬鹿だ」と言うのだけれども、その「馬鹿だ」と言われたことで子供が空想して思い浮かべることは、「俺は馬鹿か、俺の頭のはたらきは悪い、しかしいくら考えたって、親父が悪いのに俺が良いわけがない、おふくろだって鈍いのだから俺が良いわけがない」とか、それを自分で確認してしまう。もうそうなると、今度はしっかり勉強しようとしても、努力するほど逆になってしまう。
 そこで風邪を引いた場合でも、早く治らないとお母さんにすまないなどと思って愉気法をされて、「早く治ったと言わなければ……」などと思っていると却って治らなくなってしまう。だから愉気法をやる場合にも、スラッとやることが大事で、あまり大変なことをやるようなつもりで物々しく勿体をつけて手を当てていると、相手の中に脅えを誘い出すといいますか、無意識に脅える方向に向いてしまう。そうなってからはどんなに努力してみても駄目なのです。体は心の中に思い浮かべたように動いていくからです。
 「今日は鰻かしら、いい匂い」などと思うと、もう胃袋の胃液が分泌してくるのです。鰻を食べた時のことを思い浮かべるからなのです。「またフライか」などと思うと胃液は引っ込んでしまう。体は思い浮かべたようになっていくのです。そういうことがあることをまずしっかり頭の中に入れて、愉気法はあまり勿体をつけてやらないことです。

 ともかく相手の思い浮かべることを方向づけるということを皆さんで工夫して、どんな時でも意志の努力で引っ張っていかないで、空想を方向づけることで誘導していく。「しっかりしなさい」とは言わないのです。「しっかりしろ」と言うとガッカリしてしまい、「もっと勉強しろ」と言うと遊ぶことを考える。方向づける方法について、いちいち説明していると何年間もかかりますから要点だけを言ったのですが、同様の理由で、風邪のような時でも、簡単なつもりで、すぐ治せるようなつもりでヒョッと手を出すということはよくないが、かといって重い病気のつもりであまり過度に熱心になるのもいけないことはお判りになると思います。
 そういうような空想の方向づけという問題においても、個人差というものは明瞭にあります。或る人には或る言葉が非常に強く感じられる。「畜生!」と言われても、自分が画家にされたように思う人と、「あの人、下品ね」と相手を批評してしまう人があるように、感じ方にも個人差がありますから、その心の方向づけを行なうにしても、いろいろの行き方があるわけです。


野口晴哉 @ Wikipedia

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