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20081119 賢者の言葉・ 『亀倉雄策のデザイン』・田中一光 「編集を終えて」

   * [亀倉雄策のデザイン] 亀倉雄策 小川正隆・永井一正・田中一光編



 『亀倉雄策のデザイン』 亀倉雄策 小川正隆・永井一正・田中一光編 (六耀社 初版1983 新装版2005) より 、田中一光 「編集を終えて」を引用
デザインは古くなる。ある時期がくると急速に古くなる。時代に忠実であろうとするために受ける宿命であろうか。時間は、常に創られることの労苦や、多くの人々の喝采まで遠くに押し流し、新しく生まれる色鮮やかなものの上に君臨し、更に貪欲に次のものを待ちかまえている。しかし、デザイナーたちは誰しも「古くならないデザイン」を目指したりはしない。時代に呼応し、ヴィヴィッドな今日のために、最善の力を尽くすからである。

デザインは、どんな秀れたものでも、10年経つ頃が最も嫌ったらしい。20年目には多少の懐かしさと共に、目的や機能が消滅し、それをつくった作者の思想や造型力が顕になる。更に30年を経て見るデザインには、不思議とその作品を生み出した時代が明瞭に浮び上ってくるのである。昨年、一昨年と『グラフィック・デザイン』誌で、カッサンドルや、ロシア構成主義のポスターを編集した時に得た感想である。

私が光栄にも、この『亀倉雄策のデザイン』の構成の依頼を受け、半ば躊躇しながら、これにこたえたのも、この日本を代表する偉大なグラフィック・デザイナーの作品を通じて、歴史の浅いデザインというものをそうした時間軸で観察したかったためである。戦後38年、日本人の西欧文化の吸収と浸透は、単なる影響にとどまらないある限界にまで到達した。更に地球上のあらゆる文化や文明に接近可能なことで、そのデザインのソースは、ますます広く大きく、グローバルな拡がりを見せるようになった。

しかし、そうした拡大軸に対する関心に比べ、時間軸の様式の変化については、1930年代のアールデコ以来、戦後モダニズムにしろ、近年流行語化したポスト・モダンにしろ共にあいまいな観念でしかとらえられていない。モダニズムのもつ合理性、機能性には量産の普遍性と同時に、世界中を飲み干すような画一化をもたらしたためであろう。しかし、モダニズムの重要な要素は、合理主義や機能主義ばかりではない。そこには解放された個性の躍動があったことを今や忘れ始めている。

そうした目で亀倉雄策のデザインをみる時、合理、機能、個性といった、デザインの三つの要素が、実に見事な均衡をもって存在していることを発見する。この配分の巧みなバランスは強固な普遍性を獲得し、ある意味で古びないデザインというものを可能としているのではないだろうか。

私はこの2月から8月までの7ヶ月、亀倉雄策の全作品を机の上に並べている。この天才的なグラフィック・デザイナーの320点に及ぶ作品を、つぶさに観察することで、次の2つの特徴を見ることができた。

1つは、プライマリーな造型、ぜい肉をそぎ落した、単純で、ソリッドなかたちであり、もう1つは、その一見硬質にみえる造型の背後にある意外に日本人的な叙情性であった。

言うまでもないことだが、亀倉雄策はスピーチの名人で、集会や宴会でいつも氏が壇上に登場されるのを期待される。氏のスピーチの面白さは、決して話術の巧みさでも、物語の起伏でもない。「事」の核心をついた、その切り口の鮮度がたまらなく愉快なのである。多少、短絡的であったとしても、勇敢に末端を切り捨ててしまった毒舌の、そのこだわりのない本質の露出に満場は爆笑し、人々は深く共感する。

例えば、A+Y+OXという性質の要素をもった「事」があったとしても、亀倉雄策という人は、実に素早く、その主要成分がAであるということを感知して、掌中のものにしてしまう。

その狂いのない明快な判断の爽やかさが、亀倉雄策のデザインにも感じとれる。人によっては、大胆で強引な細部の排除には、異論があろう。しかし、そうした末葉にこだわっていれば、いいシンボルやトレード・マークは生まれてはこない。この作品集を通じて、特にそのマークやシンボルの解釈や造型に、世界のどんな秀れたデザイナーも及ばない、簡素で美しい亀倉雄策の芸術をみることができるのである。



   亀倉雄策@Wikipedia

   田中一光@Wikipedia

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