20091211 賢者の言葉・吉野弘・「ほぐす」
「ほぐす」 吉野弘『二人が睦まじくいるためには』 (童話屋 2003年)より引用
小包みの紐の結び目をほぐしながら
思ってみる
――結ぶときより、ほぐすとき
すこしの辛抱が要るようだと
人と人との愛欲の
日々に連らねる熱い結び目も
冷めてからあと、ほぐさねばならないとき
多くのつらい時を費すように
紐であれ、愛欲であれ、結ぶときは
「結ぶ」とも気付かぬのではないか
ほぐすときになって、はじめて
結んだことに気付くのではないか
だから、別れる二人は、それぞれに
記憶の中の、入りくんだ縺れに手を当て
結び目のどれもが思いのほか固いのを
涙もなしに、なつかしむのではないか
互いのきづなを
あとで断つことになろうなどとは
万に一つも考えていなかった日の幸福の結び目
――その確かな証拠を見つけでもしたように
小包みの紐の結び目って
どうしてこうも固いんだろう、などと
呟きながらほぐした日もあったのを
寒々と、思い出したりして
結び目@Wikipedia
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